遺言書に記載すべき特記事項 (2020.10.27)

これまでのトピックスで、遺言に関わるトピックスを多数掲載してきました。
今回は、遺言(自筆証書・公正証書共通)に入れた方が良い文言をご紹介したいと思います。
相続人に相続させる、または、相続人以外であれば遺贈するとの文言を使い、誰にどの財産をあげたいかを特定すれば、それで立派な遺言が完成します。
しかし、相続専門の司法書士であれば、実際の手続きを想定して以下のような文言を入れるべきか検討し、提案をしていきます。
それでは、1から順に見ていきましょう。
銀行預金の解約等で、遺言執行者を指定しておいた方が、確実に手続きがスムーズに進みます。
実務的な話ですが、銀行は遺言があっても、相続人同士のトラブルに巻き込まれることを恐れます。が、この遺言執行者が指定されており、当該遺言執行者が預金解約の手続きをすると、難なく審査をパスすることが多いと言えます。
また、不動産の名義変更に論点を絞っても、この遺言執行者が登場するだけで、手続きは簡易に進みます。
例えば、父が長男に全ての財産を相続させる遺言を残したとしましょう。
ところが、父がなくなる前にその長男が死亡。長男には子が二人います。
長男の子二人は遺言にしたがって、遺言者の長男が相続すべき財産を承継取得するでしょうか?
答えは、、、
NOです。
この場合、長男の子は当然に代襲相続するわけではなく、遺言は無効となってしまいます。
長男の子は代襲相続人とはなりますが、他の法定相続人との遺産分割協議がまとまらない限り、遺言内容どおりの全ての財産を相続する事は出来ません。
このような事態に備え、相続専門の司法書士であれば、遺言の内容を以下のように工夫します。
上記の『もし~』以降の部分が、予備的遺言(補充遺言)と言われる文言です。
もちろん、遺言者のご意志が一番重要なので、この文言を入れるか否かは遺言者と一緒に検討していく必要があります。
こちらは特に不動産の名義変更に直結した文言と言えますが、例えば、遺言者が孫にA不動産を遺贈するとの遺言を残したとします。
遺言者には孫の上の世代に長男がいましたが、孫が可愛すぎて上記のような遺言を残したと仮定して下さい。
孫は上の世代がいる以上、相続人とはなり得ないので遺贈との文言を用いることになります。
相続させるでも遺言でも同じ意味ですが、いざ手続きとなると全く変わってしまいます。
『相続人へ相続させる』文言であれば、他の相続人の協力なくして不動産の名義変更が出来ますが、遺贈という文言が使われている以上、遺言執行者が指定されていない限り、不動産の名義変更には相続人全員の実印と印鑑証明書が必要となります。
では、上記の事例で孫が不動産の名義を遺言によって変更する際、孫の父(遺言者の長男)が死亡して、相続人の地位を得ているとしたら、とうなるでしょう?
この場合、
といったように、『相続させる』文言への読みかえ規定が明記されていれば、他の相続人の協力を得ることなく単独で登記申請をする事が出来ます。
逆にこの文言が無い事で、他の相続人全員の協力を仰がなければならない、といった事態も、手続きを想定して遺言を書いていない事で起こり得ます。
皆様は負担ときいて何を連想しますか?
例えば、「会社内で自分にばかり重い仕事が降りかかってきて、負担に感じるなあ。」など、このようなときに使われている気がします。
負担とは、法律上は、法律行為の附款と定義されており、いわば条件のようなものです。
(遺言に条件という文言を入れると、実務上、遺言執行がかなり煩雑になるので、この負担という文言を用います。)
もう少し具体的に言えば、『この財産をあげる代わりにこういったことをしてほしい』、という時に使っていきます。
実務上、遺言の中で多く使われるケースは、
二.前項の負担として、長男は遺言者の妻◯◯の一生涯、介護扶養をしなければならない
といった表現です。
実際にそのようにして欲しいからという場合もありますが、何の負担もなしに全ての財産を長男に相続させると、後々に二男たちと遺留分争いになる可能性がある時などに、わざわざ上記の文言を入れたりします。
(もちろんケースバイケースではありますが)
家督相続で全て長男が遺産を相続していた旧民法時代は、この負担が当然に盛り込まれていたと解されており、権利を引き継ぐものが義務も引き受け、一族の大黒柱として遺産を承継できなかった弟たちの面倒を見るのが通常でした。
その為、遺産相続で争いに発展したことはないと言われています。
権利は主張出来るが義務は履行しない、という現代の遺産相続においては、遺言を作る際、上記の負担を本文に入れておくのも一つの対策と言えます。
万が一、遺産を承継する者が負担を履行しない場合、他の相続人から家庭裁判所に請求をして遺言を取り消すことができる強力な義務なので、遺言を遺す方にも安心と言えるでしょう。
付言事項とは、遺言の本文以外の部分に載せるメッセージのことをいいます。
遺言本文には法的効力があるものを記載していくのですが、この付言事項には法的効力がありません。
しかし、遺言者の相続人へ宛てた最後のメッセージとして、下記のようなことを記しておけば、無用な争いを防ぐ効果があります。
「二男◯◯には生前に自宅購入代金として、1000万円贈与しているので、今般の相続では長男に全てを相続させることとしました。
長男◯◯も二男◯◯も私の宝物でした。
今でも長男◯◯、二男◯◯が生まれた時のことを覚えています。
ですので、私亡き後は兄弟で争いをしてほしくありません。
父の最後の遺志をくみ取り、遺言通りに手続きをしてもらえることを願っております。」
日本人は面と向かって意思表示をすることが非常に苦手と言われております。
遺言でこういったメッセージを残すことで、もしかしたら争いを防ぐことができるかもしれません。
また万が一、遺言無効確認の訴えに事が発展した場合にも、遺言を作るに至った経緯やその時の背景事情を記しておけば、遺言者の真意がどこにあるか等、遺言作成当時の有力な事実を推測することに役立つと言えます。
いかがでしょうか?
当法人では、何故遺言を書くのか、その方の置かれた背景事情や家族関係、遺留分のこと等を踏まえ、オーダーメイド型の遺言文案を提案することを心がけています。
相続対策でお悩みの方は是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談下さい。