相続手続きと法定後見制度 | 目黒区 | 司法書士法人 行政書士法人 鴨宮パートナーズ

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相続手続きと法定後見制度 (2020.05.07)

 

≪目次≫

1.法定後見制度とは

2.相続人による遺産分割協議とは

3.相続手続中で発生する法定後見の手続き

4.法定後見制度の申立ては自分で出来る?

5.法定後見人は希望通りに選ばれる?

 

認知症・知的障害者の方が相続人に含まれる場合、相続手続きの一環として、必ず申立て、利用しなければならないのが法定後見制度です。

今回は、相続手続きで必要な法定後見制度をテーマにお話をしたいと思います。

 

1.法定後見制度とは

まず前提として、法定後見制度は、認知症や知的障害で判断能力を欠く、又は、判断能力が不十分な成人の方(未成年者は親権・未成年後見で対応)の財産管理・身上監護を適切にする為に設けられた制度です

認知症や知的障害には、その症状・度合いに応じて、民法上、次の区分けに応じて、家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選任していきます

■成年被後見人…精神上の障害により事理弁識能力を欠くもの。→後見人 

■成年被保佐人…精神上の障害により事理弁識能力が著しく不十分なもの。→保佐人

■成年被補助人…精神上の障害により事理弁識能力が不十分なもの。→補助人

 

 相続手続きを行っていく際、故人が遺言を残されている場合を除き、遺産分割協議という、相続人全員での遺産分けの話し合いが必要となります。

この遺産分割協議は、一般的な相続手続きのうち、全体の90%以上を占めると言われており、ほとんどの場合、遺産分割協議が必要となります。

 

2.相続人による遺産分割協議とは

遺産分割協議は、各相続人が保有する法定相続分を任意に放棄したり譲渡したりする、云わば法律行為であり、その意味内容を適切に把握して意思表示をすることが重要となります

この点、認知症のお年寄りや知的障害の方は、通常人と比べると判断能力が不十分と言え、遺産分割協議の中で他の相続人に上手く言いくるめられたりと、自己の法定相続分を安易に失ってしまう危険性があります。

そもそも、重度の認知症や重度の知的障害であれば、意識がなく寝たきりであったりと、全く意思表示が出来ない例も少なくありません。

その為、日本の相続手続きにおいては、真正な遺産分割協議の成立を確保する為、前述の法定後見制度を利用して、判断能力の不十分な相続人に対して、後見人を選任し、判断能力の不十分な相続人の財産(ここでは法定相続分)を守ろうという運用がなされています

 

3.相続手続中で発生する法定後見の手続き

前述の法定後見の中で、実務上圧倒的に多く家庭裁判所に選任申立をされるのが、成年後見人保佐人の制度です。

成年後見人とは、成年被後見人の法定代理人と位置づけられ、日用品の購入等を除き全ての法律行為を代理していく、云わば未成年者に対する親権者のような働きをする人のことを指します

一方、保佐人とは、民法13条に規定された法律行為(遺産分割協議や売買契約、建物の大規模修繕、借入、保証契約等)に関し、被保佐人がした法律行為(例えば遺産分割協議)に同意を与える働きをする人のことを指します。

どちらの制度も、民法に定められた申立権者(配偶者、四親等内の親族、検察官等)が申立人となり家庭裁判所へ申立しなければスタートしていかず、申立てが受理されるまで相続手続きはストップしてしまいます。

その為、当法人が相続手続きの相談を受け、相続人の方に認知症の方等がいることをうかがった場合は、即座に後見等の申立から進めていきます。

ところで、この後見等の申立、どのようにしていくのか?とのご相談を受けることが良くあります。

ざっと、家庭裁判所が指定する必要資料を下記にまとめますのでご参照下さい。

□親族関係図

□申立書

□診断書

□診断書附票

□愛の手帳写し

□本人の戸籍謄本

□本人の戸籍の附票

□登記されていないことの証明書

□後見人等候補者の戸籍の附票

□申立事情説明書

□親族の同意書

□後見人等候補者の事情説明書

□財産目録

□収支状況報告書

□財産関係の資料(通帳・保険証券写し、登記簿謄本等)

□負債資料の写し

 

上記資料を収集した上、遺産分割の場合は、成年被後見人等の法定相続分が確保された遺産分割協議案を添付していかなければなりません。

 

4.法定後見制度の申立ては自分で出来る?

「自分で手続きしたい。」と仰るケースもありますが、法律や事務作業、資料収集に精通した方でないとまず不可能に近い手続きかと思われます。

法務局や官庁での書類取り寄せもあることから、お仕事をされている方にとっては尚更難しい手続きと言わざるを得ないでしょう。

また、被後見人の方の財産関係をよく存じて無い場合は、

・通帳の過去の履歴を見て、毎月どのような引き落としがあり支出がどうなっているのか

・どのような保険契約があるか

等の情報を読み解いていく必要がありますが、通帳の読み方や保険証券の読み方は慣れていないと非常に煩わしいものです。

 

また、後見等申立の費用についても質問をされる場合がありますが、

□申立手数料、収入印紙800円

□登記手数料、収入印紙2,600円

□郵便切手、5,000円ほど(裁判所に都度確認)

上記費用(目安)で申立が出来ます。

後は、申立添付資料の収集実費に5,000円程考慮に入れて、自力で手続きをされる場合は総額20,000円程で手続きが出来るでしょう。

後見等申立のお手伝いは、司法書士か弁護士しか出来ない決まりとなっていますが、司法書士等の専門家に依頼する場合は別途報酬がかかることとなります。

 

5.法定後見人は希望通りに選ばれる?

最後に、良く受けるご質問で、

『母の成年後見人に長男である自分がなりたいが、なるにはどうすれば良いか?』

との質問を受けます。

これは、本人の財産状況・被後見人と後見人候補者との関係性、居住関係等全ての事情を考慮して、家庭裁判所が職権で決定することになります

つまり、手をあげても確実に後見人に選任されるとは言い切れないのです。

東京家裁の運用では、金融資産500万円を超えると一般的に専門職後見人といって、司法書士が選任されるケースが多いと言われています。

また、全国的な統計をみても、司法書士等の専門職が選任されるケースが七割ほどであり、親族後見人が選任されるケースは少ないと言えます。

 


成年後見人の申立手続きから審判確定には、通常3ヶ月~4ヶ月のお時間を要します。

相続人のうちに認知症の方がいらっしゃる場合等は、お早目にご相談されることをお薦め致します。

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