相続手続きと株式実務② (2020.05.14)

前回のトピックスで、相続手続きと株式実務を取り上げました。
⇒【相続手続きと銀行実務の実態】はこちら
⇒【相続手続きと株式実務①】 はこちら
前回の相続トピックスをご覧になり、株式の相続手続きは「株式の移管手続きをすれば終わり」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
しかし、実務上は、配当金の取り扱いにも十分注意する必要があります。
そこで、今回は相続手続きと配当金について取り上げます。なお、株式には上場株式と非上場株式の2種類がありますが、前回同様、上場株式の場合を前提とします。
配当金とは、企業が株主に分配する利益のことを言い、株主が保有する株数に比例して分配されます。
通常は決算日時点の株主に配当が行われますが、特別大きな利益がある年や会社の記念の年などには、特別配当、記念配当といったように別の時期にも配当がなされることがあります。
配当は毎年必ず行われるものではなく、業績不振のときや、業績好調でも企業の経営方針によって行われないこともあります。
配当金の受取方法は以下の4種類あります。
上場株式の配当金やETF、REITの分配金を証券口座で受け取る方法のことです。
この方式を利用すると、配当金や分配金が支払い開始日に自動的に入金されます。
なお、同一銘柄を複数の証券会社で保有している場合は、その証券会社の口座で保有している株数に応じて、別々に配当金が入金されます。
保有する全ての株式などの配当金を、一つの銀行預金口座で受け取る方法です。
発行会社の株式事務を代行している信託銀行から送られてくる配当金領収証などを金融機関に持参して現金で受け取る方法です。
ほとんどの場合、ゆうちょ銀行の窓口で受け取ることになります。また、対象銘柄が信託銀行等の特別口座で管理されている場合は、通常この方式で配当金が支払われます。
具体的には、配当金領収証の表面に受領印を押印し、配当金領収証の裏面に記載の取扱金融機関(ゆうちょ銀行等)へ持参することで配当金を受け取ることができます。
受領印は銀行や証券会社の届出印や実印以外のものでも受け取り可能です。
配当額や金融機関によっては、本人確認書類(運転免許証等)の提示が必要な場合があります。
(あらかじめ金融機関にご確認ください。)
配当金を受け取る銀行預金口座などを、銘柄ごとに指定する方法です。
従来は③の配当金領収証方式が主な受取方法でしたが、株券の電子化に伴い、2009年から①②の方式が加わりました。
※③の配当金領収証方式以外の方式を利用するには、あらかじめ証券会社に申し込む必要があります。
お手元の株式資料の中に、「配当金領収証」などと記載された書面が出てきた場合は要注意です。
亡くなった方の保有株式に関して、まだ受け取っていない配当金が存在している可能性があります。
このようなことが起きてしまう例としては、配当金領収証の交換期限切れが該当します。
配当金領収証には、銘柄ごとにゆうちょ銀行窓口での払渡期間が設定されています。
通常は1ヶ月程度で期限切れになってしまうため、配当金額が少額な場合、忙しいとゆうちょ銀行の窓口に行くを後回しにしてしまい、そのまま払渡期間を過ぎてしまうのです。
この払渡期間を過ぎた場合でも配当金の受取は可能ですが、配当金領収証を送付した信託銀行等での手続きが別途必要となります。
受け取っていない配当金があるか調査したい場合も同様です。
なお、払渡期間とは別に定められた配当金の除斥期間を経過すると、配当金を受け取ることができなくなります。
配当金領収証を受け取ったら早めに配当金を受け取るようにしましょう。
亡くなった方名義の配当金であっても、受け取ることは可能です。
信託銀行等に連絡し、所定の手続きを行ってください(手続きの詳細は5.で後述します)。
相続開始後に支払われた配当金は、家賃収入等と同様、各相続人が法定相続分で取得することが原則です。
しかし、全ての相続人の合意によって、相続財産に加えて遺産分割の対象とすることができるという判例(家賃収入について)があり、実務上はそのようにすることも多いです。
この場合、配当金は遺産分割が決定するまでの間、相続人全員の共有財産となり、配当を請求する権利も各相続人が有します。
全相続人の合意がないまま、金融機関の窓口に配当金領収書を持参し、特定の相続人が配当金を受け取ったとしても、受け取った人のものにはなりませんのでご注意ください。
まず、対象銘柄を管理する信託銀行等の証券証券代行部に連絡し、未受領配当金を受け取るための申請書類を郵送で取り寄せます。
連絡をすると1~2週間程度で会社所定の必要書類がお手元に届きます。
未受領配当金を受け取りにあたっては、上記①の申請書類の他に、以下の書類も準備しなれけばなりません。
・亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(戸籍・除籍・改製原戸籍)
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・遺産分割協議書(相続人全員の署名とご実印の押印が必要)
・相続人全員の印鑑証明書(有効期限あり)
特に戸籍の収集に関しては、多くの場合、複数の役所に発行請求をかけることになります。
この作業に最短でも1ヶ月はかかりますので、早めのご対応が必要です。
信託銀行等の窓口で手続きを行い、相続人名義の口座に未受領配当金を振り込んでもらいます。
窓口での手続きに1時間ほどかかり、その後、振込完了までに1ヶ月程度を必要とします。
なお、この手続きは支店窓口で行うことをお勧めします。
郵送で行うことも出来ますが、この場合、戸籍謄本や遺産分割協議書、相続人全員分の印鑑証明書の原本を提出する必要があります。
特に複数の証券会社や信託銀行が相続手続きの対象となる場合、これらの返送があるまで、他の金融機関への手続きは行えないことになりますのでご注意ください。
なお、営業時間については、信託銀行の場合、通常は平日9時~15時までとなります。
配当金が相続財産に該当するかどうかは、「相続開始日」と「配当基準日」、「配当確定日」、「配当を受け取った日」の4つの関係によって決まり、次のように取り扱われています。
なお、配当基準日と配当確定日の意味は以下のとおりです。
「配当基準日」・・・配当などの権利が得られる日のことです。決算日がこれにあたります。
「配当確定日」・・・実際の配当金が確定して、配当金交付の効力が発生される日のことです。
通常はその会社の株主総会の開催日が配当確定日となります。
その後、株主総会における決議後に配当金の支払がなされます。
相続人の配当所得として、相続人の所得税の対象に含めることになります。
(相続税の計算対象に含める必要はありません。)
相続税の対象となります。
このケースの場合、株式保有者である被相続人は配当基準日時点では生存しているため、配当金を受け取る権利を有します。
その後、被相続人が亡くなり、後日支払われた配当金については、被相続人が保有していた権利が実現したものとしてとらえ、「配当期待権」として相続財産に計上することになります。
相続税の対象となります。
上記②のケースと異なり、生前、既に配当金交付の効力が生じているため、未収配当金として扱います。
受取配当金がまだ残っていれば、現金預貯金として相続税申告がなされることになります。
(配当金という名目での申告は不要です)
また、この配当金は被相続人の配当所得にあたるため、別途準確定申告の対象となります。
※配当基準日や配当確定日は銘柄ごとに異なります。
上記のどのケースにあたるのかを判断するには、発行会社のIR資料などを事前に調べる必要があります。
いかがでしたでしょうか。
株式の相続では株式の移管だけでなく、配当金にも注意を払う必要があります。
株式の銘柄ごとに配当金の支払方法、配当金の有無を確認のうえ、未受領配当金の受取手続きや、相続開始時期に応じて適切な税務申告等を行わなければなりません。
銘柄数が多いほど相続人様への負担も大きくなりますので、まずはお早めに目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまでお気軽にご相談下さい。