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預貯金の仮払い制度 (2020.06.26)

預貯金の仮払い制度

 

 

≪目次≫
1.制度概要
①家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度
②家庭裁判所による仮分割の仮処分
2.仮払い制度を利用する注意点
2-1.仮払いは上限がある
2-2.家庭裁判所の仮分割の仮処分には時間がかかる
2-3.相続財産の持分に対する差し押さえ
2-4.相続放棄ができなくなる可能性がある
2-5.他の相続人とトラブルになる可能性がある
2-6.遺言による遺贈などがある場合

 

1.制度概要

相続が開始されると、葬儀費用の支払いをはじめ、亡くなった方の扶養家族であった相続人の生活費の工面や、相続債務の弁済などを行う必要が生じます。

しかし、亡くなった方の預貯金口座の解約手続きは、遺言がある場合を除いて、遺産分割協議が成立した後でないと行うことができません。

また、いつ相続が開始されるかを正確に予想することは難しいため、これらに必要な資金がいつも相続人の手元にあるとも限りません。

この様な場合に検討いただきたいのが、「預貯金の仮払い制度」の利用です。

預貯金の仮払い制度とは、遺産分割が成立する前であっても、一定金額までであれば法定相続人が被相続人名義の預貯金を出金できる制度です
(民法改正により2019年7月1日より施行)

預金の仮払い制度には

①家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度
②家庭裁判所による仮分割の仮処分

という2つの方法があります。

ここで本制度の概要、そして利用する際の注意点について見ていきましょう。

 

①家庭裁判所の判断を経ずに払戻しができる制度

民法改正により、相続人が単独で、各金融機関において最大150万円まで預貯金の払い戻しを受けることができるようになりました
(民法909条の2、民法909条の2に規定する法務省令で定める額を定める省令)

 

<相続人が単独で払い戻しを受けることができる金額>

相続開始時の預貯金の額(口座基準) × 3分の1 × 当該払戻しを受ける相続人の法定相続分
(ただし、一つの金融機関から払戻しを受けることができる金額は最大150万円まで)

 

なお、ここでの「法定相続分」とは「第900条及び第901条の規定により算定した当該共同相続人の相続分」のことを指します。

平たく言えば、遺言による相続分の指定や特別受益者の相続分などは考慮せず、共同相続人の構成にしたがって形式的に法定相続分を計算します

⇒【法定相続人とその見分け方】
⇒【遺産相続時の法定相続分の計算方法】

 

預貯金の仮払い制度は、共同相続人の(準)共有財産である払戻請求権(金融機関から預貯金の払い戻しを受ける権利)を、各相続人が単独で行使できることを認めたものです。

したがって、仮払いに関する払戻請求権は譲渡や差し押さえができないと解されています。

<必要書類>
・金融機関所定の申請書
・被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本および相続人全員の現在戸籍(法定相続情報一覧図での代用可)
・預金の払戻しを希望する相続人の身分証明書、印鑑証明書
※上記は一般的なもので金融機関によって取扱いが異なる可能性もありますので、事前にご確認下さい。

 

 

②家庭裁判所による仮分割の仮処分

家庭裁判所は預貯金に限定して仮払いの必要性があると認められた場合は他の共同相続人の利益を侵害しない範囲で預貯金の全部または一部の仮払いを認めることができます

手続法の改正により、「急迫の危険を防止するため必要があるとき」という制限規定が撤廃され、遺産分割前に預貯金の払い戻しを受けるための要件が緩和されています。
(家事事件手続法第200条3項)

 

2.仮払い制度を利用する注意点

預貯金の仮払い制度は以下のような状況での利用が考えられます。

・葬儀費用の支払に必要なお金がすぐに用意できない。
・誰が葬儀費用を出すかで意見が一致しない。
・被相続人と同居して生活費を出してもらっていた相続人が生活に困窮した。
・被相続人の借金を返済しなければならない。
・被相続人が借りていたアパートやマンションの家賃を支払う必要がある。

本制度を利用すれば、相続発生後の資金需要にある程度対応することがでるでしょう。

しかし、利用の際にはいくつか注意すべき点があります。

 

2-1.仮払いは上限がある

法務省令によると、相続人が単独で金融機関から仮払いによる払戻しを受けることができる金額は、ひとつの金融機関ごとに「150万円まで」と規定されています。

これを超える預貯金を引き出したい場合には、家裁の仮分割の仮処分を受ける必要があります。

 

2-2.家庭裁判所の仮分割の仮処分には時間がかかる

仮分割の仮処分を受けるためには、遺産分割の調停または審判を申し立てなければなりません。

時間がかかってしまいますので、緊急を要する資金繰りとしてはあまり適しません。

 

2-3.相続財産の持分に対する差し押さえ

仮払いを受ける権利そのものは差し押さえができないと解されています。

しかし、(準)共有状態にある相続財産の持分が差し押さえられた場合、利用が出来なくなる場合があります
※不動産のように共有持分の明示が無いので、金銭債権のどの部分が持分であると主張が出来ないため。

 

2-4.相続放棄ができなくなる可能性がある

被相続人が生前多額の負債を抱えていたなど事情がある場合、相続放棄を検討する必要があります。

しかし、本制度により被相続人の預貯金が仮払いされると、それを受け取った相続人は遺産分割(一部分割)により取得したものとみなされます。

この結果、相続を単純承認したとみなされることになり、後日、負債の方が多いと判明したとしても、相続放棄ができなくなってしまいます

本制度の利用を検討する場合、債務調査をするなどして遺産の全容をよく確認しておきましょう

 

2-5.他の相続人とトラブルになる可能性がある

例えば葬儀代を支払った際の領収証を保存していなければ、遺産分割協議の際にこの支払を考慮してもらえない可能性があります。

本制度を利用するときには、他の相続人とトラブルにならないよう事前に連絡をすべきでしょう。

また葬儀代や被相続人の借金の返済に支払った場合には、必ず領収証を保管し、何のために使ったかを証明できるようにしましょう。

 

2-6.遺言による遺贈などがある場合

遺言による遺贈や、特定の法定相続人に対して特定の財産を「相続させる」趣旨の遺言(「特定財産承継遺言」)があった場合、その預貯金は遺産の範囲から外れるため、仮払いの対象財産となりません。

そのため、受贈者や、承継者として指定された法定相続人が、該当預貯金に関する内容が含まれた遺言書を金融機関に提示した場合、他の相続人は当該預貯金について仮払い制度を利用することが困難になります

逆を言えば、遺言書の存在を金融機関へ通知する前であれば、他の相続人によって仮払い制度を利用されてしまう可能性もあります

遺言書によって預貯金財産を承継する方は、一刻も早く金融機関へその旨通知しましょう。

 


民法改正により創設された預貯金の仮払い制度は、利便性が高まった一方で注意すべき点も多くあります。したがって、その利用を検討する場合は、相続財産の十分な調査、相続手続きに関する専門知識が必要です。

思わぬトラブルを生じさせないためにも、相続が発生したらお早めに目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談ください。

 

 

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