相続放棄の注意点 (2020.07.10)

以前のトピックスで、相続放棄手続きについての概要をご説明致しました。
⇒【相続放棄と法定相続人】はこちら
今回は、裁判上の相続放棄手続きの中で、注意しなければならない点をより詳しく取り上げていきます。
単純承認とみなされる行為をしてしまうと、裁判上の相続放棄ができなくなってしまいます。
単純承認とは、『相続する意思(=相続することを承認する)と認められる行為をすること』です。
民法には「単純承認をしたときは、無限に被相続人(=亡くなった方)の権利義務を承継する」と規定されているので、相続を放棄することができません。
お客様より「どんなことをしたら単純承認になるの?」「これをしたら相続放棄できないの?」というご質問を頂くことがあります。
ここで具体的にいくつかみていきましょう。
相続財産(=亡くなった方の財産)から支払いをしてしまうと、単純承認したものと扱われてしまいます。
つまり、亡くなった方の預金を債務支払いに充ててしまった場合は、相続放棄が出来なくなってしまいます。
しかし、相続人自らの財産を支払いに充てた場合は単純承認に当たらないとされています。
死亡保険金も相続人の固有財産です(保険金は亡くなった方の財産ではなく、相続人の財産になります)ので、相続人が請求して受け取った死亡保険金をもって支払いに充てても単純承認にはあたりません。
葬儀費用については、相続財産から払っても相続人の財産から払っても相続放棄は認められます。
ただし、内容に関しては注意が必要です。
火葬や埋葬にかかった費用、お寺に支払う費用等は相続財産から支払っても単純承認には当たらないとされており、支払った内容が「相当範囲内」であれば、相続放棄が認められます。
入院費を相続財産から支払った場合、単純承認とみなされる可能性があります。
そのため、相続放棄をしようと思っている場合は、相続財産からの支払いをすることは避けましょう。
亡くなった方がお住まいだった賃貸住宅を解約することは単純承認とみなされます。
また、部屋の片付けをする際も注意が必要です。
ごみの処分をする程度であれば単純承認には当たりませんが、遺品や家財道具については処分してしまうと単純承認に当たる場合があります。
相続放棄をする場合は、その旨を伝え手続きをしないほうがよいでしょう。
被相続人が貸していたお金をその相手に請求し回収した場合は、単純承認にあたります。
その場合、相続放棄ができなくなってしまいますので、注意が必要です。
上記は一般的な内容になりますので、実際には具体的内容により判断されます。
相続放棄を検討されている場合は、基本的には単純承認にあたる可能性がある行為をすることは避けましょう。
相続放棄をすると「最初から相続人ではない」こととなりますので、借金を払う必要もありませんし、不動産の固定資産税も払う義務もなくなります。
しかし、全ての義務から免れるか、というとそうではないのです。
それが、「民法940条第1項の管理義務」といわれるものです。
どういうものか事例で見てみましょう。
<事例>
・父が亡くなり、母も既に亡くなっているので相続人は長男のみ(祖父母も亡くなっていたとします)。
・父には多額の借金があったため、長男は相続放棄を検討。
・父には姉がおり、長男は自分が相続放棄をしたことをその伯母には伝えていなかった。
父の相続財産には、生前の父が住んでいた古い家があり、現在は空家となっています。
その空家の壁が壊れ隣宅に倒れてしまい、隣人から長男に損害賠償請求がありました。
相続放棄をしている長男が損害を賠償する必要があるのでしょうか。
上記の例の場合、長男の方は相続放棄をしていても損害を賠償しなければならない場合があります。
それは民法940条第1項で、『相続放棄をした人は、その相続放棄によって相続人になった人が相続財産の管理を始めるまで、自分の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければいけないこと』となっているためです。
つまり、上記例の場合、長男の相続放棄によって相続人となった叔母に相続放棄したことを伝えていないために、叔母が自分が相続人となったことを知らないので、相続財産を管理をすることができないのです。
そのため、長男はその間に生じた損害を負担しなければならない場合が出てくるのです。
また、自分が相続放棄をすると相続人がいなくなってしまう場合には、相続財産管理人の選任をしないとその管理義務は続いてしまうことになります。
相続財産管理人とは、相続人がいなくなった場合、債権者(=被相続人にお金を貸していた人等)や利害関係人からの申立により裁判所によって選任される、亡くなった方の財産を管理する人のことです。申立には費用も時間もかかりますので、相続放棄する際に他に相続人がいなくなってしまうときは、その後の手続きをどうするかを検討する必要があります。
相続放棄手続きには、上記の他にも注意点がありますので、ご自身で判断してお手続きをされると思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。
そのため相続放棄手続きをされる場合は専門家に相談することをお勧め致します。当法人では、相続放棄のお手続きについてのご注意点等をご説明の上、一番最適な方法をご提案致します。
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