相続分の譲渡とは?相続放棄との違いと注意点 (2021.07.16)
被相続人が亡くなると、通常民法に定められている法定相続人が相続をすることになりますが、この法定相続人の相続分については、他の共同相続人又は共同相続人以外の第三者に対しても譲渡することができます。
相続分を譲渡することによってどのような効果が発生するのか、またそのメリット、デメリットについて解説していきたいと思います。
相続分の譲渡について民法には直接的に記載はありませんが、民法第905条に相続分を譲渡した場合の相続分の取り戻しについて記載されていることから、相続分の譲渡が可能であるとされています。
相続人が他の相続人に相続分の譲渡をした場合、相続分の譲渡を受けた相続人は、譲渡を受けた分だけ相続分が増えます。
相続分を譲渡することにより、実質的に遺産分割協議に近い効力が生じます。
相続分の譲渡は有償でも無償でもかまいません。
相続人に対しての無償の相続分譲渡は贈与に該当するため贈与税が課される、と思われがちですが、相続分譲渡では贈与税はかかりません。
相続分譲渡の要件として、遺産分割協議の前に相続分の譲渡を行う必要があります。
これに対して相続人以外の第三者に相続分の譲渡した場合、相続分を有償で譲渡した場合は譲渡した相続人に譲渡所得税が課され、無償で譲渡した場合は譲受人に贈与税が課税されることになります。
第三者が相続分の譲渡を受けた場合、その第三者は遺産分割協議に参加する権利を取得します。
ただ、第三者が遺産分割協議に参加することに、元々の他の相続人は抵抗を感じる場合もあるでしょう。
そのため、他の相続人は1か月以内であれば、譲渡を受けた者が支払った価格や費用を支払うことによって相続分を取り戻すことができることになっています。
相続放棄すると、はじめから相続人でなかったことになりますので、負債も相続しません。
相続分譲渡の場合、譲渡した人にも負債の支払い義務が残ります。
第三者への譲渡であれば相続人の地位の包括的な譲渡であるため、この場合、負債の支払い義務が譲渡人か譲受人にあるかの論点は残ります。
債権者が支払いを要求してきたら拒めないので注意しましょう。
また、相続放棄の場合、「放棄者が存在しない」ものとして、その人の相続分が他の法定相続人に割り振られます。
一方で相続分の譲渡の場合、「譲渡の相手を相続人が自由に選べる」という違いがあります。
●遺産を相続したくない、関心がない
相続分を譲渡すると、面倒な相続登記などの手続きをせずに済みます。
●相続トラブルに巻き込まれたくない
相続分を譲渡すると、遺産分割協議に参加する必要がなくトラブルに巻き込まれる可能性がほぼなくなります。
●配偶者や孫など、自分以外に遺産相続させてあげたい人がいる
遺産相続権を与えたい相手に相続分の譲渡をすれば、希望を叶えることができます。
●相続人が多数で、遺産を引き継ぐ人を少人数に絞りたい
他の共同相続人へ相続分の譲渡をすると、相続人を減らせて状況を整理できるでしょう。
●早期に相続権を現金化したい
遺産分割前に有償で相続分を譲渡すれば、早期に現金が手元に入ってきます。
相続分の譲渡をすると、その人は相続権を失いますが、負債の支払い義務はなくなりません。
相続債権者から支払い請求が来たら返済せざるを得ないので、注意しましょう。
上記でも説明をしましたが、相続人以外の人へ相続分を譲渡すると、他の相続人は1カ月以内であれば取り戻し請求ができます。
自分の妻などに遺産相続権を与えたいと思って相続分を譲渡しても、相続人から取り戻し請求が行われたら目的を達成できなくなってしまうので、注意が必要です。
遺言がある場合、相続分の譲渡ができるケースとできないケースがあります。
「~に〇分の〇、~に〇分の〇」など「相続分の指定」が行われている場合、指定された相続分を譲渡できます。
一方「~に不動産を遺贈する、~にA銀行の預金を相続させる」など遺産を指定して遺贈された場合、相続分という概念がないので相続分の譲渡はできません。
相続トラブルに巻き込まれない方法として、相続分の譲渡は有効です。
ただ、負債があると引継いでしまうなどのデメリットもあるので、注意しましょう。
相続手続・生前対策をお考えの方は、渋谷区マークシティ、目黒区学芸大学駅の司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、まずはお気軽にご相談ください。
遺産分割協議と債務整理手続き (2020.07.16)
前回までのトピックスでは、相続手続きのみに着目してトピックスを掲載してきましたが、今回は相続と他の手続きの関連という観点から、遺産分割と債務整理手続きとの関連をご説明させて頂きます。
数は多くない事例ですが、ご相談を受けて「これは、、」とハッとした事例を記事にしたいと思います。
上記の相続関係において、被相続人の遺産は自宅の土地建物のみであり、長男が全て相続することで話が進んでおり、手続きのご相談に来られました。
相続税が課税されるリスクもなく、担当の司法書士が「今回はスムーズに手続きが進みそうだ。」と思いながら、談笑交じりに各種委任状等に署名捺印をもらっていた矢先のことです。
これから、遺産分割協議書を作って判を貰おうとしている中でのこの長男様の何気なく発した一言に、担当の司法書士は冷や汗をかいたそうです。
しかし、いったいどういう事でしょう?
民事再生手続きとは、『借金の返済が困難となった人が、裁判所に申立てを行うことによって、借金の減額を目指す救済制度』のひとつです。
その為、土地や家屋と言った価値の高い資産を保有したままで手続きを行うことは、この制度の趣旨に沿ったものではありません。
なぜなら、個人再生には清算価値保障の原則というものがあり、資産が多ければそれだけ返済額も高額となる仕組みとなっているからです。
逆に、民事再生手続き中に相続が発生し、遺産を貰えるのに自己の判断で遺産分割協議により相続分を放棄してしまった場合、この事実が裁判所に明るみになると民事再生手続きに支障をきたしてしまう恐れがあります。
もう少し分かりやすく言うと、
①相続で遺産を取得すると弁済総額が上がる
②遺産分割協議において自己の相続分を放棄した事実が裁判所に明るみになってしまうと、再生計画が認められず民事再生手続きが否認されてしまうおそれがある
今回は②のケースだったのです。
後日、当法人から民事再生手続きを受任している弁護士法人にご連絡をして、内容を詳しく聞き打合せたところ、二男様は今回のお父様の相続について、家庭裁判所に正式に相続放棄の申述をしてもらうことで話がまとまっていきました。
遺産分割協議の中でする相続分の放棄と違い、家庭裁判所へ申し立てる相続放棄の申述は、初めから相続人で無かったものとみなされる為、民事再生手続き中に行っても再生計画に影響を及ぼすことは一切ないのです。
ただし相続放棄には、相続開始の事実を知ってから3か月以内に申立てをしないと原則認められませんので注意が必要です。
また、今回の相続関係では、相続放棄者(二男)以外にも第一順位の相続人(長男)がいたから良かったものの、第一順位の相続人が一人であって、かつその相続人が相続放棄をしてしまうと、相続人がガラリと変わってしまいます。
相続放棄の絡む法定相続人の考え方はこちら↓
もし相続人の中に債務整理手続き中の方がいる場合、お早目にその事情も含めご相談頂ければと思います。
こういった特殊な事情を含む相続関係ですと、相続を専門としている事務所でないと思わぬ見落としが発生、取り返しのつかない状況になりかねません。
是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談下さい。