遺言で出来ない事を実現する『死後事務委任契約』の活用方法 (2021.01.13)
よく、「遺言書を作って葬儀のことを決めておきたい」という話を耳にするのですが、実は遺言書では、財産に関する事項にしか法的拘束力がありません。
例えば「私の遺骨は海に散骨してほしい」と遺書に書いても、ご遺族が「自分のお墓に納骨したい」と決めたら、その点に関して法的拘束力がない以上、ご親族の意思の方が強くなることになります。
また、官公庁への各種届出を伴う手続き以外にも、近年ではSNSでの死亡の告知などといった事務手続きも課題になっています。
これら故人の遺志通りに進めることができる方法として、主に遺言書のオプションとして活用されている死後事務委任という契約があります。
今回は死後事務委任について説明するとともに、ポイントを整理したいと思います。
死後事務委任では、さまざまな手続き等を委任することができます。
下記の例以外の内容も委任することが可能ですし、下記の内容のうち一部のみを委任することも可能です。
◆死後事務委任内容(の例)◆
□死亡診断書・死体検案書の受取り
□役所への死亡届の提出
□病院等の退院手続きと精算
□葬儀・火葬に関する手続き
□埋骨・散骨等に関する手続き
□お墓に関する手続き
□相続財産管理人の選任申立手続きに関する事務
□賃貸住宅料の支払いと物件引渡しまでの処理
□遺品整理
□健康保険・運転免許・パスポート・各種資格等の返却等手続き
□公共料金・住民税等の支払手続き
□クレジットカード・電子決済サービス等の精算・解約手続き
□SNS等インターネットサービスの死亡告知・残置・消去・解約等の手続き 等
死後事務委任契約の相手は、自由に選ぶことができますので、知人・友人などでも受任することが可能です。
ただし、委任した事務が実施されるのは自分の死後となるので、委任したとおりに実行してくれているか確認することができない、という点に注意が必要です。
信頼のおける人であるとともに、手続き等を間違いなく実施できる人を選ぶべきでしょう。
手続きの中には慣れていないと難しいものもあります。時には受任者が自分の手に負えず、わざわざ費用を払って専門家に依頼して実施した、という例もありますので、友人・知人に負担がかからないよう、専門家に委任することをオススメします。
死後事務委任契約を結ぶ場合、死後事務を実施する受任者は、委任者が亡くなったら即座に対応しなければならないため、委任者が元気でいるかどうかを知っている必要があります。
このため、特に受任者が独り身である場合などには、死後事務委任契約と併せて「見守り契約」といって、本人と定期的に連絡して状態を確認する契約をセットで契約することが一般的です。
死後事務委任の報酬に決まりはありません。
専門家に依頼した場合、専門家が提示する金額によりますので、内容等をふまえ検討が必要です。
かといって、高いから安心というようなことはありません。
状況を適切に理解して委任した通りに実行してもらえるかどうか、という点では、専門家であれ友人であれ、信頼できる方を選ぶことが重要になるでしょう。
友人に委任する場合、念のため公正証書(1通概ね11,000円+正本謄本料3,000円程度)を作成することで委任を証明することができます。
専門家に依頼した場合、法的には死後事務委任を単独で委任することも可能ですが、実務上では遺言書のオプションとしてまとめることが多いようです。
また費用に関してですが、報酬以外に実際の手続費用が必要となります。
あらかじめ概算費用を見積りしてもらい、報酬とともに信用度を検討されることをお勧めします。
なお、死後発生する費用の支払いについては、遺産から支払う方法と、予め預託しておく方法があります。
預託については信託会社に預ける方法もありますが、死亡するまで信託手数料を払い続けねばならないなどのデメリットがあります。
死後事務委任契約を行うにあたっては、死後実施すべき手続きがどれくらいあるかを把握し、事前に少しづつでも準備されることをオススメします。
例えばお墓・仏壇の片付けがある場合は、「閉眼供養」「永代供養移設料」などと称して不要な費用が発生する場合があります。
インターネット上での手続きに必要なアカウント情報や消去・残置方法なども整理しておくと良いでしょう。
銀行の口座解約には出生から死亡までの連続した戸籍謄本等が必要となります。
無駄な費用をかけないためにも、生前に整理しておくことをオススメします。
ただし、もちろん、生きているうちに必要なものを無理に処分したり、諦めたりする必要はありません。
・葬儀、住居の片づけやインターネット上の手続き方法を決めておくには、遺言書の他に「死後事務委任契約」が必要。
・手続きの中には、慣れていないと難しいものがあるので注意が必要。
・死後事務は死後即座に行う必要があるため、「見守り契約」とセットで契約することが一般的。
・受任者への報酬の他に発生する費用は、遺産から支払う他に、予め預託しておくことが可能。
・できるだけ生前に整理しておく。ただし無理のない範囲で。
死後事務委託は、それぞれのケースによりさまざまな手続きがあります。安易に委任してしまうと、受任者に負担をかけてしまったり、故人の遺志を実現出来ないといった結果になっては元も子もありません。
ご検討の方は是非一度、目黒区学芸大学駅の司法書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談ください。