「配偶者居住権」の施行とその効果 (2020.04.27)
民法の大改正において、相続法に関して新たに「配偶者居住権」が新設されました。
令和2年4月1日よりいよいよ施行となりましたが、ここで改めてどんな内容なのか、どんな効果があるのか、などを掘り下げてみましょう。
配偶者居住権とは・・・『残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でも可)に居住していた場合、一定の要件を充たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利』です。
具体例で見てみましょう。
Aさんはつい先日、夫に先立たれてしまった。別居している子供がおり、相続財産は自宅と預貯金だけであった。
古家ではあるが、立地は戦前から所有している好立地であるため、相続税が発生してしまうようだ。
まず、配偶者であるAさんが自宅を相続すると、法定相続分通りに相続財産を分配するとなった場合、子供に自宅以外の財産である預貯金が渡る可能性が高いため、Aさんは、家はあっても貰える預貯金が大きく減ってしまう事になります。
分配財産がなんとか預貯金から賄えたとしても、相続税の支払いが必要となるため、払い切れないとなれば、自宅を売って支払わなくてはならないでしょう。
延納、物納といった方法もありますが、いずれの場合も、遺されたAさんは今後の生活資金が不足したり、住み慣れた家を手放す事態にもなりかねません。
このような場合の配偶者の居住権を保護する目的で、配偶者居住権が新設されました。
これは、不動産の所有権を、配偶者が死亡するまで住み続けられる『配偶者居住権』と、子供など、他の相続人が居住権以外の所有権だけを持つ『負担付き所有権』との二つの権利に分ける制度です。
前述の事例では、他の相続人である子供と協議し、折り合いがつけば問題なく配偶者居住権を設定できそうでしたが、中には、家は他の相続人が相続し、残された配偶者が直ちに住居を退去しなければならない、といったケースもあるでしょう。
これは、残された配偶者にとっては大きな負担となると考えられます。
そこで、夫婦の一方の死亡後、残された配偶者が、最低でも6か月間、無償で住み慣れた住居に住み続けられるようになりました。
これを『配偶者短期居住権』と呼び、下記のように区別されています。
●配偶者居住権・・・・配偶者が死亡するまで(10年、20年と限定することもできる)建物に居住できる権利(要件あり)
●配偶者短期居住権・・一定期間(少なくとも6ヶ月間)建物に居住できる権利(要件無し)
※配偶者短期居住権に関して、新法の施行日以後は無条件でこの効果が発生します。
配偶者居住権の設定にはいくつかの要件があります。
●相続が発生した時点において、配偶者がその建物に居住していること
●遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈する旨を記載している、または、遺言がない場合は相続人間の遺産分割協議において配偶者居住権を取得する旨を遺産分割協議書に記載していること
●配偶者居住権設定の登記がなされていること(配偶者と建物所有者による共同申請)
上記の要件を充たすことが必要となります。
メリットとしては次の2点が挙げられます。
当然ながら、一番のメリットとしては、配偶者が賃料等の支払なくそのまま慣れ親しんだ建物に住み続けられる、という点です。
更には、建物所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることもできますので、例えば、使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで賃料収入を得て、介護施設に入るための資金を確保することもできます。
夫婦に相続が発生すると、配偶者が不動産を相続するケースが多いですが、配偶者居住権を設定する事で、建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権の確保が出来ます。
これにより、預貯金等のその他の遺産をより多く取得することが出来ます。
【例 2,000万円の評価額の建物と3,000万円の預貯金を妻と子供1人で遺産分割する場合】
(法定相続分での分割と仮定します。また、配偶者居住権の価値算定についても仮定での評価額となります。)
妻が建物の所有権を得る場合…
建物(2000万)+預貯金(500万)となり、預貯金も分配こそされますが、今後の生活を考えると少し不安が生じてくる金額です。
配偶者居住権を設定した場合…
配偶者居住権(1000万)+預貯金(1500万)となり、今後の生活にも余裕を持てる金額でしょう。
※婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産贈与に関する優遇措置が適用となる場合、生前贈与した居住用不動産については相続財産には含まれないため(2019年7月1日より施行)、配偶者居住権を設定しても、原則として遺産分割で配偶者の取り分が減らされることはありません。
このように配偶者にとって非常に手厚い今回の法改正ですが、注意すべき点もあります。
●配偶者居住権設定の登記の際に、配偶者と所有者での共同申請となる。
配偶者居住権は施行日の2020年4月1日よりその効力が認められますので、これより前に書かれた遺言書を用いて配偶者居住権の設定する事はできません。
また、配偶者居住権の設定された不動産は売買対象としてはかなり不利となる(配偶者が住んでいるため、仮に購入しても済むことが出来ない・賃貸に出せない)ため、所有者となる者としっかりと話し合う必要があるでしょう。
なお、建物の取り扱いとしては賃貸しているのと同様に、配偶者が使用・修繕の義務を負う他、居住している建物やその敷地の固定資産税等を負担する事になります。
このようにまだまだ始まったばかりの配偶者居住権ですがだいたいのイメージは掴めましたでしょうか??外せないポイントとしては、
◎スムーズな配偶者居住権の設定には遺言書を書いておくことがベター!
の2点が挙げられます。
これらをふまえ、新制度の利用を検討されている方は、目黒区学芸大学、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで一度ご相談ください。