貸金庫開扉と遺言書 (2020.09.25)
以前のトピックスで、自筆証書遺言と公正証書遺言について触れていきました。
【遺言】関連トピックスはこちら
【遺言が無効となったケース~公正証書遺言編~】
【遺言が無効となったケース~自筆証書遺言編~】
【遺言の種類と書き方~公正証書編~】
【遺言の種類と書き方~自筆証書編~】
公証人や司法書士が関与する公正証書遺言は、法律の専門家がサポートしながら遺言を作成していきますので、文言に不備があることを限りなく少なくする効果があります。
一方、自筆証書遺言は法律に不慣れな方が独自に書いて行くため、文言に不備があったり、有効要件を欠いてしまうことが少なからず発生してしまいます。
今回のトピックスでは、自筆証書遺言で手続きがうまく進まなかった事例を基にお話しをしたいと思います。
まず、下記の相続関係図をご覧ください。
上記の関係図において、被相続人Aは自分が亡くなった後に残された妻たちが相続手続きに困らないよう、一切の財産を妻に相続させる旨の自筆証書遺言を残して亡くなりました。
ところが、前述の一切の財産には預金及び銀行の貸金庫契約が含まれており、遺言書を持参した妻が手続きをしようとしたところ、遺言書に遺言執行者が定められていない事と、遺言執行者が貸金庫を開扉できる旨の文言がない事を理由に、当該遺言を用いての預金解約、貸金庫契約の解除を断られてしまいました。
更に、銀行が言うには、遺言書に加えて、貸金庫契約の解除に関して相続人全員の実印と印鑑証明書を取り付けて欲しい、とのことでした。
法律解釈上、貸金庫の開扉手続きは、
・相続人全員の合意を持って応じるべきである説
と解釈が分かれるのですが、実務上の解釈としては、後者の考え方を採用している銀行が圧倒的多数です。
本来、一切の財産と遺言に謳っている以上、遺言執行者の選定についても、遺言執行者に対する貸金庫開扉の権限を与えていなくても全財産を相続した妻が一人で手続きが出来て然るべきなのですが、実務上は前述のとおり理不尽な結果を招いてしまいます。
また、そもそも、遺言書を銀行の貸金庫に大切に保管していた場合はどうなるでしょうか?
遺言書を取り出すためだけに、相続人全員の実印・印鑑証明書を準備するというおかしな現象さえ起こってしまいます。
そこで、当法人では遺言書を書く際に預金解約等が含まれる場合には、まずは公正証書遺言の作成を提案し、さらにその本文の中に下記の様な文言を入れるように工夫をしております。
第●条
1.遺言者は、この遺言の遺言執行者として妻○○(遺産を貰う人とすることが多い)を指定する。
2.遺言者は、前項の遺言執行者に対し、次の権限を与える。
(1)本遺言の執行に必要な場合には、代理人又は補助者又はその両者を選任すること。
(2)登記手続き、遺言者の有する預貯金等の名義変更・解約・受領、貸金庫の開扉・解約・内容物の取り出し、その他この遺言を執行するために必要な一切の行為を行うこと。
(1)は、遺言執行者の復任権といい、民放改正によって、令和1年7月1日以降に作成した遺言では、(1)の事項を記載していなくても問題はないのですが、遺産に貸金庫契約を含む場合は(2)の文言がないと手続きがスムーズに運ばない可能性が高くなります。
また公証人は、遺言の効力が発生した時に実際に銀行と掛け合い手続きを代行する立場の人ではないので、大抵(2)の文言を入れ忘れることが多いです。
ご自身で独自に自筆証書遺言を書く際は、もっと不備が出てくる可能性は高いといえるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
遺言は、遺言を完成させることを目的としてしまうと、失敗してしまいしがちです。
やはり、相続手続きに精通した専門家に、予見される事を想定してもらい、後々の手続きに残されたご遺族が困らないように作成していくことを心掛けるべきです。
当法人では、専門の相続チームが将来起こりうることを予見しながら、お客様のご意思を遺言にしっかりと反映させていきます。
まずは一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談下さい。
相続欠格事例 (2020.09.10)
皆様は、『相続欠格』という言葉を聞いたことがありますでしょうか?
亡くなった方の配偶者、子や孫等、一定の要件を満たせば法律上相続権が発生します。
しかしながら、その相続権を持った人が被相続人を殺してしまったり、自己にのみ有利となる行為(強迫して遺言を書かせる等)をしてしまう等、その他軽率な行動をとり、民法で定める一定事由に該当してしまうと、法律はその人から相続権をはく奪してしまいます。
これを相続の欠格事由(相続欠格)と言っていきます。
では、相続の欠格事由とはどういったことが該当するのでしょうか?
民法では、「被相続人又は先順位の者を故意に死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者は、相続人となることは出来ない。」と規定しており、この規定以外にも相続人となり得ない事由を規定しています。
前記の、被相続人等を殺そうとする行為は欠格事由に該当し、相続人になれないことは当然ですが、その他にもうっかりしたことで欠格事由に該当してしまうケースがあります。
今回は、当法人の司法書士が相談を受け、実際に欠格事由に該当した事例を紹介します。
下記の、相続関係図をご覧ください。
ご相談者は、被相続人の奥様で、被相続人が自筆で書いた遺言書をもっており、この遺言書を使って不動産の名義変更や預貯金の解約等諸々の相続手続きをしてほしいとの相談でした。
自筆証書遺言の形式的有効要件として、
●日付の記載
●氏名の記載
●押印
が必要となりますが、この遺言、日付の記載がなかったのです。
(自筆証書遺言の詳細は【遺言の種類と書き方~自筆証書編~】をご覧下さい。)
ですので、当該遺言は無効で手続きには一切使うことが出来なくなり、6名のご兄弟を含めた相続人全員で遺産分けの話し合い(遺産分割協議)をし、手続きを進めなくてはいけないことをご説明したところ、
疎遠な兄弟が複数いるし、被相続人と築き上げてきた遺産のいくらかを相続分として兄弟達に分配しないといけないことに気を悪くした相談者は、
『じゃあ、私がここに日付記載すればいいんでしょ。亡くなる少し前に書いてくれたから、平成●年●月●日て書きますね。』
と、司法書士の制止を振り切り、遺言書に日付を記載してしまったのです。
これは、民法891条5項にいう、遺言書の偽造ないしは変造に値し、欠格事由に該当します。
目の前で、偽造行為を目の当たりにしてしまった当法人の司法書士は、お仕事の依頼を断るしかありませんでした。
因みに、この相談者は、相続欠格事由に該当したため、一切の相続権をはく奪されてしまいます。
日付の記載さえしなければ、最低でも遺産の4分の3相当は取得できたはずなのに、軽率な行動をとってしまったが故に、一切の財産を相続することが出来なくなりました。
自筆証書遺言の有効性の判断や、実務上手続きに利用できるかは、非常に難しい問題で、専門家に見てもらうことが一番有益です。
是非、まずは当法人までご相談下さい。
自筆証書遺言と物件の同一性 (2020.07.31)
以前のトピックスで、自筆証書遺言について取り上げました。
公正証書遺言と法務局で保管された自筆証書遺言(令和2年7月10日より保管制度開始)以外の遺言書は、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
遺言書の検認を受けていなければ、不動産の名義変更登記の申請、預貯金解約等の相続手続きをすることができないからです。
しかし実のところ、検認を受けたからといって、その遺言書を使って不動産の名義変更等を行えるとは限りません。
遺言書の記載内容が明確でないために、遺言書だけではその内容を実現できないケースがしばしば見受けられるのです。
≪事例≫
相続人からの遺言書に関するご相談で、お亡くなりになった方は生前に自筆証書遺言を作成していました。
遺言書はすでに検認手続き済みとのことです。
遺言には「自宅はAに相続させる」「別宅はBに相続させる」と記載されていました。
住所などの記載はないものの、以前よりお亡くなりになった方から遺言内容を聞いていたため、相続人の間では対象物件がどれになるのか合意済みで、特に争いはありません。
しかしこの事例、遺言書に基づく不動産の名義変更について、事前に登記所に照会をかけたところ、受理できないとの回答を受けました。
不動産の名義変更を登記所に申請する場合、対象となる物件を正確に特定しなければなりません。
今回のケースであれば、登記簿謄本の記載に従って、少なくとも
●建物なら所在、家屋番号
を遺言書に記載する必要があります。
これらの情報を知るには、不動産ごとの登記簿謄本の確認が必要です。
上記で挙げた情報がないと、遺言書で書かれている不動産と、名義変更の対象となる不動産が同じ物件なのか登記官が判断できず、遺言書を使って不動産の名義変更することができないといった不具合が生じます。
しかし、ご自身で作成する自筆証書遺言の場合、こういった形式的な事情を知らずに住居表示(=住所)で記載されることが多く、この住居表示と対象物件の所在・地番等が同一の物件であることを申請者側で示さなければなりません。
今回の遺言書では「自宅」「別宅」としか記載されていないため、まずはその所在等を明らかにします。
また、ここでいう自宅・別宅とは建物だけなのか、それとも敷地である土地も含むのかも併せて検討が必要となります。
遺言書の内容が不明確な場合、特定の条項の解釈をどのように行うべきか、下記の最高裁判例があります。
≪最高裁判決 昭和58年3月18日≫
遺言の解釈にあたっては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたっても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し、当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。( 一部抜粋 )
なんだか難しい表現ばかりで解りづらいですよね。
要約すると、『遺言書の特定の部分が不明確であった場合、杓子定規に文言の字面だけで判断するのではなく、遺言書の全体との関連性や諸事情を考慮することも認めていますよ。』という事なのです。
よって、内容が不明確な遺言がある場合には、この判例を前提として検討する必要があります。
遺言書・対象不動産の登記簿謄本・お亡くなりになった方の戸籍附票謄本などを集め、各不動産の所在地を管轄する登記所に事前相談を行います。
この際、遺言の対象となる不動産と、名義変更の対象として提示した不動産が同じものかどうかの判断は、登記官に委ねられます。
よって、案件によって、相続人全員の署名・実印済み上申書(印鑑証明書付き)の追加提供を求められたり、遺言書による名義変更を受け付けてもらえないといったことが起こるのです。
自筆証書遺言はご自身だけで気軽に書けるメリットがあります。
しかし、作成時に適切なサポートがないと、ご自身の想いを望んだ形で遺せないという大きなデメリットも存在する、といった事例でした。
いかがでしたでしょうか。
上記のような事例はほんの一例であり、実際には検認手続きをするまでもなく無効と判断されてしまった件や、登記には問題なく受理されたが、金融機関の解約手続きでかなり危うい状況に陥りそうになった件(最終的には何とか受理されましたが、個人でお手続きされていたらまず突っぱねられていたでしょう。)なども、実は多く見受けられます。
大切なご遺産を確実な形で遺したいとお考えの方は、まずは専門家へご相談する事をお奨めいたします。
遺言をお考えの方は是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまでお気軽にご相談ください。
自筆証書遺言書保管制度について (2020.06.18)
これまで自筆証書遺言にかかる遺言書といえば、自宅の仏壇や金庫で保管する、といったケースが大多数のようでした。
しかし当然ながら、遺言書の紛失・亡失や、相続人によって偽造されるというリスクもあります。
そういった問題を解決するため、令和2年7月10日施行の法改正により自筆証書遺言書を法務局で保管する制度が新設されました。
今回は自筆証書遺言書保管制度について取り上げてみたいと思います。
≪申請場所≫
②遺言者の本籍地
③遺言者が所有する不動産の所在地
①②③いずれかを管轄する法務局に申請することができます。
ただし、全国すべての法務局で保管の申請ができるわけではありませんので注意が必要です。
保管の申請ができるのは、東京周辺では下記の法務局になります。
東京法務局
【本局、板橋出張所、八王子支局、府中支局、西多摩支局】
横浜地方法務局
【本局、川崎支局、横須賀支局、湘南支局、西湘二宮支局、相模原支局、厚木支局】
さいたま地方法務局
【本局、川越支局、熊谷支局、秩父支局、所沢支局、東松山支局、越谷支局、久喜支局】
千葉地方法務局
【本局、市川支局、船橋支局、館山支局、木更津支局、松戸支局、香取支局、佐倉支局、柏支局、匝瑳支局、茂原支局】
・・・他
≪申請できる人≫
保管の申請をすることができるのは、遺言者本人のみ
遺言者本人が法務局に行き申請をしなければなりません。
また、代理人に預けて代理人が本人に代わって法務局に保管の申請をすることもできません。(遺言書の性質を考えれば当然と言えるでしょう。)
つまり司法書士や弁護士、家族が本人から自筆証書遺言を預かって保管の申請を行うことはできません(ただし保管申請の手続き書類を司法書士等が代理して作成することは可能です)。
なお、本人が法務局に保管の申請をする際に、付き添い程度の介添えであれば他人の同伴も許されます。
≪遺言の申請者(遺言者本人)ができること≫
遺言書保管の申請をした人は、閲覧の請求をすることにより、保管されている遺言書の内容を確認することができます。
閲覧方法は、
・遺言書原本の閲覧
の2種類があります。
モニターによる閲覧の場合には全国どこの遺言書保管所でも閲覧の請求をすることができます。
ただし遺言書原本の閲覧は、保管されている法務局にしか請求をすることができません。
遺言書の閲覧を請求する場合にも手数料が必要になります。
モニターによる閲覧の場合には1回につき1,400円、原本の閲覧は1,700円の手数料を納付する必要があります。
遺言書保管の申請をした人は、申請の撤回をすることにより、遺言書を返還してもらうことができます。
申請の撤回には手数料はかかりません。
また撤回し、返還された遺言書は、自筆証書遺言の要件を整えていれば、その後も有効なものとされています。
遺言書保管の申請をした後に遺言者の氏名、住所等に変更があった場合には、その旨の届出を行う必要があります。
変更の届出は全国どこの遺言書保管所にもすることができ、また郵送により届出をすることも可能です。
≪相続人等ができること≫
特定の遺言者について,自分が相続人,受遺者等又は遺言執行者等となっている遺言書が遺言書保管所に保管されているかどうかを証明した書面(遺言書保管事実証明書)の交付を請求することができます。
この遺言書保管事実証明書の交付請求は遺言者がなくなった後にのみすることができます。
相続人等は、遺言書の画像情報等を用いた証明書(遺言書情報証明書)の交付請求及び遺言書原本の閲覧請求をすることができます。
これによりどのような内容の遺言が保管されているか知ることができます。
遺言書情報証明書の交付請求も遺言者が亡くなった後にのみすることができます。
相続人等が証明書の交付を受けると、その方以外の相続人に対して遺言書を保管している旨の通知がなされます。
これは、相続人間での不公平を生じさせないための措置と言えます。
相続人等は、閲覧の請求をすることにより、保管されている遺言書の内容を確認することができます。
閲覧の方法は遺言申請者と同様に、
・遺言書原本の閲覧
の2種類があります。
相続人等による閲覧は遺言者が亡くなった後にのみすることができます。
②の交付請求の時と同様に、相続人等によって遺言書の閲覧がなされると、その方以外の相続人に対して遺言書を保管している旨の通知がなされます。
①遺言書を紛失したり、受遺者や相続人が遺言書を発見できないといった事態を避けることができる。
②遺言書が生前に発見され、遺言内容が相続人等に知られてしまったり、遺言書の偽造・変造・破棄・隠匿といったリスクを避けることができる。
③申請時に遺言保管官により、遺言書が法務省令に定める様式に則っているかどうかを確認するので、様式不備によって、遺言が形式的に無効となることを避けることができる。
④公正証書遺言より費用を抑えることができる。
①遺言書があることに相続人が気付かず、遺言書がなかったものとして相続人で協議し、財産分配される可能性がある。
②法務局でのチェックはあくまで様式に則っているかの形式面でのチェックであり、法的に問題があるかどうかまでは精査されないため、将来的に問題が発生する可能性がある。
③遺言者本人のみが申請できるため、何らかの理由で出向けない状態にある遺言者は制度を利用できない。
上記のようにどちらに転ぶかによって、メリットがそのままデメリットに転じる可能性もあります。また内容の部分までは精査されないため、遺言者の望む形を実現できるかどうか、といった部分に関しては、やはり司法書士等の専門家に確認してもらう必要があるでしょう。
いかがでしたでしょうか。
当法人では公正証書遺言をオススメしておりますが、自筆証書遺言の内容精査といったご相談も承っております。
遺言をされたいとお考えの方は是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまでご相談ください。
遺言の種類と書き方~自筆証書編~ (2020.04.28)
わが国の遺言の種類・方式は、民法に数多く規定されておりますが、感染症で隔離施設に隔離されたり、船舶事故等で緊急に船舶内で遺言を書いたりする場合を除き、通常の場合ですと下記の3種類の遺言の方式から選択することが一般的です。
●自筆証書遺言
●公正証書遺言
●秘密証書遺言
上記のうち③の秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも公開せずに秘密にしたまま、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言のことであり、通常この方式を選択される方は、ほぼいらっしゃいません。
では、実務で司法書士が良く目にする①の自筆証書遺言、また、司法書士がよくお客様に相続対策で提案する②の公正証書遺言の方式・書き方について触れてみたいと思います。
公正証書遺言についてのトピックスはこちら
⇒【遺言の種類と書き方~公正証書編~】
自筆証書遺言は、下記の要件がすべて満たされていなければ、問答無用で無効となりますので、事前に司法書士等の専門家にご相談しておく事をお薦めします。
●日付の記載をいれる
●氏名の記載
●押印があること
※上記のうち、全文を自署する要件のみ、2019年1月13日から施行された改正民法により方式が緩和され、遺言の目的とする財産の記載については、登記簿謄本の写しや通帳の写しを添付(各写しのページ毎に氏名と押印が必要)することで、自署の代わりとすることが可能となりました。
上記要件は、あくまで遺言書としての有効要件であり、要件を満たしていることで遺言者の死後の不動産の名義変更や預貯金の解約等の諸手続きに確実に対応出来るか否か、については全く別問題となりますので、手続きを見据えた書き方というものが、非常に重要となります。
また、公正証書遺言を除き、遺言は遺言者の死亡後に、家庭裁判所による検認手続き(改ざん等を防ぐ証拠保全手続き)が必要となりますので、どうしても費用をかけずに自力で書きたいという方を除いては、公正証書による遺言作成の方が効果が絶大と言えるでしょう。
それでは、自筆証書遺言の実際の書き方について見ていきますが、
書き方はシンプルに、誰に何を渡したいかを記載していればそれで充分です。例を挙げると、
所在 新宿区●●
地番 ●●番
地目 ●●
地積 ●●㎡ ...』
と言った具合です。
当たり前の様に感じるかもしれませんが、ここで注目すべきワードは『相続させる』との文言です。
多くの遺言には妻●●に『あげる』『与える』『贈与する』『譲る』との文言が書かれていることが少なくありません。
また、『遺贈する』との難しい表現をされているケースも多々あります。
実は上記の様な文言、相続手続きをする司法書士を非常に悩ませる文言なのです。
上記の、『遺贈する』はもちろんのこと、『あげる』『与える』『贈与する』『譲る』との文言は、不動産の名義変更や預貯金の解約をする場合に、法的に遺贈と解される余地があり、実際に相続手続きをする際、遺言とは全く関係の無い相続人に協力を求めなければいけない場合が出てくるのです。
実際は、遺言者の置かれていた当時の状況・遺言全文から読み取れる遺言者の合理的な意思を推認・解釈して、手続きの手法を検討することになります。
では、遺贈と相続との違い、どのような意味が含まれているのか?
民法の考え方では、「遺贈とは、遺言により自己の財産を『相続人でない他人』に与える『処分行為』である。」と解釈されています。
ここで一旦、遺言から離れて考えてみましょう。
例えば、ご自身のお父様が、生前中にある物を他人にあげるなどの処分行為をしたまま、その履行をせずに死亡した場合、お父様がなされた生前の処分行為の履行義務は相続人全員に引き継がれます。
その結果、相続人全員の協力のもと、相手方に物の引き渡しをしなければならないという事態を招くのです。
遺贈も、自己の財産を『相続人でない他人』に与える『処分行為』と解されているので、上記の例と何ら変わりがなく、遺言の効力が発生した瞬間(すなわち遺言者の死亡の時)に、その財産の移転義務が相続人全員に承継されます。
したがってこの場合、遺言の内容を実現する為には、原則、相続人全員の協力が必要となるのです。
遺言は実務上、遺言者が死亡したあとに、相続人の内の一人から判が貰えなさそうと言った、何らかの理由で作られるケースが多くみられます。
せっかく妻に一切の財産を与えたくて書いた遺言に、『遺贈』との文言が使われたが為に、不仲の長男の実印・印鑑証明書を要する事態になったのでは元も子もありません。
相続人の一人に対し、『相続させる』との文言を使って遺言を書いた場合は、基本的には、上記の様な事態には陥りません。
法的な効果や、実際の手続きに対応出来るかは、相続に精通した司法書士にしか判断できないものです。
遺言を書こうと思った時、また、自筆証書遺言で相続手続きをしようと思った際、当法人にご相談頂ければ、専門の司法書士が全面的にバックアップをさせていただきます。
万が一、ご自身のお父様等が『遺贈する』との文言を用いて自筆証書遺言を書かれていた場合でも、あきらめる必要はありません。
当該遺言が、相続人の1人への遺贈である場合、当法人の司法書士が、関係各所に交渉・折衝をし、遺贈手続きの簡便な方法を提案したり、場合によっては一般的な相続手続きに転換して手続きを行った事案が過去に多数存在します。
まずは目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お早目のご相談をされることをおすすめ致します。