相続人の中に成年被後見人と成年後見人がいる場合の相続手続き (2020.05.22)
前回のトピックスで、相続人の中に未成年者が含まれる場合を取り上げました。
相続人の中に未成年者とその親権者が含まれる場合、原則は特別代理人の選任が必要であることを前回のトピックスにて取り上げました。
同様にして、遺産分割協議において利益相反に該当するものは他にもあります。
今回のテーマでは、「相続人の中に成年被後見人とその成年後見人が含まれる場合」を取り上げてみます。
※遺産分割協議における利益相反とその問題点、特別代理人については、前回の相続トピックスをご覧ください。
相続人が重度の認知症や知的障害などを患っている場合、ご自身で他の相続人と遺産分割協議を行うことは難しく、協議の際に不利益や不都合が生じてしまいます。
このような場合は、家庭裁判所に後見開始の審判の申立を行い、成年後見人を選任してもらうことができます。
成年後見人は、本人(=成年被後見人)の利益や生活などを考慮し、本人の財産の管理・保全を行うことなどを任務とします。今回のケースにおいては、選任された成年後見人が当該相続人の代理人して、遺産分割協議に参加します。
相続発生前に親族間で成年後見人になっていた場合、本ケースのように成年被後見人と成年後見人の両方が相続人となってしまう事があります。このような場合は利益相反に該当するため、成年後見人は成年被後見人の代理人として遺産分割協議に参加することができません。
よって遺産分割協議の為の特別代理人の選任の申立により選任された特別代理人が、成年被後見人の代理人として遺産分割協議に参加することになります。
相続人の中に成年被後見人とその成年後見人が含まれる場合でも、既に「成年後見監督人」が選任されていれば、原則、特別代理人を選任する必要はありません。
当該後見監督人が成年被後見人の代理人となるためです。(成年後見監督人が相続人の一人である場合を除く。)
成年後見監督人とは、家庭裁判所によって選任された、成年後見人の事務を監督する人のことを指します。(主に司法書士や弁護士等の士業監督人が選任されるケースが多いです。)
家庭裁判所は、必要と認めるときは、成年後見監督人を選任することが可能です。成年後見監督人は、後見人が行う事務の内容を確認し、定期的に家庭裁判所に報告します。
成年後見人には、包括的な代理権や財産管理に関する大きな権限が与えられており、万が一、権限が濫用されると、本人に重大な不利益を及ぼすこととなります。
しかし、当然ながら、本人は後見人を管理・監督できる状況にありません。そこで、代わりに第三者が後見人を監督する必要が生ずるのです。
このようにして、成年後見監督人は成年後見人の監督者として、遺産分割協議の際に当該後見人の代理として成年被後見人の代理をする事があるのです。
いかがでしたでしょうか。
遺産分割協議に特別代理人の参加が必要となる場合、予め特別代理人を選任する必要があります。
家庭裁判所との打ち合わせなどは、事前準備に時間がかかります。このようなケースに当てはまる場合は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズにお早めにご相談ください。
相続人の中に未成年がいる場合の相続手続き (2020.05.19)
前回までのトピックスで、海外在住の相続人が外国籍を取得している場合を取り上げました。
今回は相続人の中に未成年者が含まれる場合について取り上げます。
遺産分割協議には全ての相続人が参加する必要があります。しかし、相続人が未成年者の場合、その人は遺産分割協議に参加することができません。
このような場合、誰が代わりに参加することになるのでしょうか?
未成年者が財産に関する法律行為をおこなう場合、原則親権者が未成年者の法定代理人となります。
しかし、未成年者と親権者との間で利害が対立する場合(これを「利益相反」といいます)、その行為について親権者は法定代理人になることができません。
遺産分割協議も財産に関する法律行為になりますので、通常は親権者が代わりに参加します。
しかし、未成年者とその親権者がともに相続人である場合、双方の間に利益相反が生ずると判断されます。
その結果、親権者は遺産分割協議に参加することができません。
そこで、親権者の代わりに遺産分割協議に参加する人を定める必要があります。
特別代理人とは、家庭裁判所で決められた手続きのために特別に選任される代理人のことです。
未成年者の親権者と違い、決められた手続き以外の代理はできず、当該手続きが終われば任務は終了します。
相続手続きに関しては、
・遺産分割協議書への署名押印
などを代理人として行います。
特別代理人になるにあたり、特に資格は必要ありません。
そのため、実務上は、親権者や未成年者との間に利害関係がない親族(祖父母、叔父・叔母など)が選ばれることも少なくありません。
ただし、特別代理人の候補として届け出た人が適任でない場合、家庭裁判所によって司法書士などの専門家が選任されます。
いかがでしたでしょうか。
遺産分割協議に特別代理人の参加が必要となる場合、予め特別代理人を選任する必要があります。
家庭裁判所との打ち合わせなど事前準備に時間がかかりますので、このようなケースに当てはまる場合は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズに、まずはお早めにご相談ください。
海外在住の相続人がいる場合の相続手続き① (2020.05.15)
今回は、海外在住の相続人がいらっしゃる場合のお話です。ここでは、相続人が日本国籍を有する場合を取り上げます。
亡くなった方の相続人の所在を確認すると、一部の方が海外に在住しているという事例が近年増えています。
お仕事に伴う海外転勤などが主な要因のようです。
相続手続きに必要な遺産分割協議書には、相続人全員の印鑑証明書が必要ですが、このような場合はどのようにすればよいのでしょうか?
ある方がお亡くなりになった場合、生前保有されていた財産は原則、相続財産となります。
相続財産のうち、どの財産を誰が取得するかについては、特に遺言書がなければ、相続人全員での話し合いが必要です。これを「遺産分割協議」といいます。
相続手続きを進めるにあたっては、基本的に、この話し合いの結果を「遺産分割協議書」という書面にまとめなければなりません。
この遺産分割協議書には、相続人全員が署名押印(実印)し、印鑑登録証明書を添付します。
通常、印鑑証明書や住民票写しの発行は住民票がある市区町村で行います。一時的に海外に滞在している相続人の場合、日本国内の市区町村に住民票があれば、帰国して自ら手続きすることが可能です。また、代理人に手続きを依頼することもできます。
一方、海外在住で日本国内に住民票がない場合、これらの書類を取得することができません。そこで、相続手続きを進めるためには、代わりの手段を用意する必要が生じます。
まず、印鑑証明書の代わりの手段として、「署名(サイン)証明書」の取得というものがあります。
署名証明書とは、「日本に住民登録をしていない海外に在留している方に対し、日本の印鑑証明に代わるものとして日本での手続きのために発給されるもので、申請者の署名(及び拇印)が、確かに領事の面前でなされたことを証明するもの」です。
遺産分割協議書を作成する場合は、事前に海外へ遺産分割協議書を送付し、それを受け取った相続人が、領事の面前で当該遺産分割協議書に署名したうえ、署名証明を受けることになります。
署名証明は、海外にある日本の在外公館(日本国大使館など)において、日本国籍を有する人のみが申請することができます。
申請者本人が手続きを行わなければならず、代理や郵送による申請を行うことはできませんのでご注意ください。
住所証明が必要になる場合には、住民票の代わりに「在留証明書」を取得できます。
こちらも海外に所在する日本の在外公館において、原則、日本国籍を有する人(二重国籍となっているケースも含む)のみ申請することができます。
いかがでしたでしょうか。
相続人が海外在住の場合、国内在住の場合とは異なる手続きが必要となります。
(⇒【海外在住の相続人がいる場合の相続手続き②】 はこちら)
どちらのケースにしましても通常よりも準備に時間がかかります。
このように複雑な手続が必要になる場合にも専門チームが丁寧にご説明しサポートさせて頂きますので、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、まずはお早めにご相談ください。
相続手続きと株式実務② (2020.05.14)
前回のトピックスで、相続手続きと株式実務を取り上げました。
⇒【相続手続きと銀行実務の実態】はこちら
⇒【相続手続きと株式実務①】 はこちら
前回の相続トピックスをご覧になり、株式の相続手続きは「株式の移管手続きをすれば終わり」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
しかし、実務上は、配当金の取り扱いにも十分注意する必要があります。
そこで、今回は相続手続きと配当金について取り上げます。なお、株式には上場株式と非上場株式の2種類がありますが、前回同様、上場株式の場合を前提とします。
配当金とは、企業が株主に分配する利益のことを言い、株主が保有する株数に比例して分配されます。
通常は決算日時点の株主に配当が行われますが、特別大きな利益がある年や会社の記念の年などには、特別配当、記念配当といったように別の時期にも配当がなされることがあります。
配当は毎年必ず行われるものではなく、業績不振のときや、業績好調でも企業の経営方針によって行われないこともあります。
配当金の受取方法は以下の4種類あります。
上場株式の配当金やETF、REITの分配金を証券口座で受け取る方法のことです。
この方式を利用すると、配当金や分配金が支払い開始日に自動的に入金されます。
なお、同一銘柄を複数の証券会社で保有している場合は、その証券会社の口座で保有している株数に応じて、別々に配当金が入金されます。
保有する全ての株式などの配当金を、一つの銀行預金口座で受け取る方法です。
発行会社の株式事務を代行している信託銀行から送られてくる配当金領収証などを金融機関に持参して現金で受け取る方法です。
ほとんどの場合、ゆうちょ銀行の窓口で受け取ることになります。また、対象銘柄が信託銀行等の特別口座で管理されている場合は、通常この方式で配当金が支払われます。
具体的には、配当金領収証の表面に受領印を押印し、配当金領収証の裏面に記載の取扱金融機関(ゆうちょ銀行等)へ持参することで配当金を受け取ることができます。
受領印は銀行や証券会社の届出印や実印以外のものでも受け取り可能です。
配当額や金融機関によっては、本人確認書類(運転免許証等)の提示が必要な場合があります。
(あらかじめ金融機関にご確認ください。)
配当金を受け取る銀行預金口座などを、銘柄ごとに指定する方法です。
従来は③の配当金領収証方式が主な受取方法でしたが、株券の電子化に伴い、2009年から①②の方式が加わりました。
※③の配当金領収証方式以外の方式を利用するには、あらかじめ証券会社に申し込む必要があります。
お手元の株式資料の中に、「配当金領収証」などと記載された書面が出てきた場合は要注意です。
亡くなった方の保有株式に関して、まだ受け取っていない配当金が存在している可能性があります。
このようなことが起きてしまう例としては、配当金領収証の交換期限切れが該当します。
配当金領収証には、銘柄ごとにゆうちょ銀行窓口での払渡期間が設定されています。
通常は1ヶ月程度で期限切れになってしまうため、配当金額が少額な場合、忙しいとゆうちょ銀行の窓口に行くを後回しにしてしまい、そのまま払渡期間を過ぎてしまうのです。
この払渡期間を過ぎた場合でも配当金の受取は可能ですが、配当金領収証を送付した信託銀行等での手続きが別途必要となります。
受け取っていない配当金があるか調査したい場合も同様です。
なお、払渡期間とは別に定められた配当金の除斥期間を経過すると、配当金を受け取ることができなくなります。
配当金領収証を受け取ったら早めに配当金を受け取るようにしましょう。
亡くなった方名義の配当金であっても、受け取ることは可能です。
信託銀行等に連絡し、所定の手続きを行ってください(手続きの詳細は5.で後述します)。
相続開始後に支払われた配当金は、家賃収入等と同様、各相続人が法定相続分で取得することが原則です。
しかし、全ての相続人の合意によって、相続財産に加えて遺産分割の対象とすることができるという判例(家賃収入について)があり、実務上はそのようにすることも多いです。
この場合、配当金は遺産分割が決定するまでの間、相続人全員の共有財産となり、配当を請求する権利も各相続人が有します。
全相続人の合意がないまま、金融機関の窓口に配当金領収書を持参し、特定の相続人が配当金を受け取ったとしても、受け取った人のものにはなりませんのでご注意ください。
まず、対象銘柄を管理する信託銀行等の証券証券代行部に連絡し、未受領配当金を受け取るための申請書類を郵送で取り寄せます。
連絡をすると1~2週間程度で会社所定の必要書類がお手元に届きます。
未受領配当金を受け取りにあたっては、上記①の申請書類の他に、以下の書類も準備しなれけばなりません。
・亡くなった方の出生から死亡までの連続した戸籍謄本(戸籍・除籍・改製原戸籍)
・相続人全員の現在の戸籍謄本
・遺産分割協議書(相続人全員の署名とご実印の押印が必要)
・相続人全員の印鑑証明書(有効期限あり)
特に戸籍の収集に関しては、多くの場合、複数の役所に発行請求をかけることになります。
この作業に最短でも1ヶ月はかかりますので、早めのご対応が必要です。
信託銀行等の窓口で手続きを行い、相続人名義の口座に未受領配当金を振り込んでもらいます。
窓口での手続きに1時間ほどかかり、その後、振込完了までに1ヶ月程度を必要とします。
なお、この手続きは支店窓口で行うことをお勧めします。
郵送で行うことも出来ますが、この場合、戸籍謄本や遺産分割協議書、相続人全員分の印鑑証明書の原本を提出する必要があります。
特に複数の証券会社や信託銀行が相続手続きの対象となる場合、これらの返送があるまで、他の金融機関への手続きは行えないことになりますのでご注意ください。
なお、営業時間については、信託銀行の場合、通常は平日9時~15時までとなります。
配当金が相続財産に該当するかどうかは、「相続開始日」と「配当基準日」、「配当確定日」、「配当を受け取った日」の4つの関係によって決まり、次のように取り扱われています。
なお、配当基準日と配当確定日の意味は以下のとおりです。
「配当基準日」・・・配当などの権利が得られる日のことです。決算日がこれにあたります。
「配当確定日」・・・実際の配当金が確定して、配当金交付の効力が発生される日のことです。
通常はその会社の株主総会の開催日が配当確定日となります。
その後、株主総会における決議後に配当金の支払がなされます。
相続人の配当所得として、相続人の所得税の対象に含めることになります。
(相続税の計算対象に含める必要はありません。)
相続税の対象となります。
このケースの場合、株式保有者である被相続人は配当基準日時点では生存しているため、配当金を受け取る権利を有します。
その後、被相続人が亡くなり、後日支払われた配当金については、被相続人が保有していた権利が実現したものとしてとらえ、「配当期待権」として相続財産に計上することになります。
相続税の対象となります。
上記②のケースと異なり、生前、既に配当金交付の効力が生じているため、未収配当金として扱います。
受取配当金がまだ残っていれば、現金預貯金として相続税申告がなされることになります。
(配当金という名目での申告は不要です)
また、この配当金は被相続人の配当所得にあたるため、別途準確定申告の対象となります。
※配当基準日や配当確定日は銘柄ごとに異なります。
上記のどのケースにあたるのかを判断するには、発行会社のIR資料などを事前に調べる必要があります。
いかがでしたでしょうか。
株式の相続では株式の移管だけでなく、配当金にも注意を払う必要があります。
株式の銘柄ごとに配当金の支払方法、配当金の有無を確認のうえ、未受領配当金の受取手続きや、相続開始時期に応じて適切な税務申告等を行わなければなりません。
銘柄数が多いほど相続人様への負担も大きくなりますので、まずはお早めに目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまでお気軽にご相談下さい。
法定相続情報証明制度とその利用 (2020.05.11)
2.誰がどのように利用できるの??
3.手続きの流れ
4.メリット・デメリットは??
4-1.従来の手続き
4-2.法定相続情報証明制度を利用した手続き
5.再交付や申請の委任をしたい場合
法定相続情報証明制度とは、亡くなった人(被相続人)の法定相続人が誰で、それぞれ被相続人とどのような間柄なのか、という情報を証明するための制度で、2017年5月29日より開始された比較的新しい制度です。
法務局に所定の手続きをすることで、認証文が付記された法定相続情報一覧図の写しが何通でも無料交付されます。
この一覧図は被相続人と各法定相続人との間柄を一覧化した図の事であり、この一覧図を使うことにより、従来の戸籍謄本等の大量な書類の代わりに法定相続情報を証明できるので、相続手続きを円滑に進めることが可能となりました。
(※制度の利用は任意ですので、従来通りの方法で相続手続きを進めても差し支えありません。)
しかし、開始当初はこの法定相続情報一覧図を使った相続手続きはなかなか浸透しませんでした。
と言うのも、法務局への相続登記に関してはすんなりと受け入れられましたが(さすがに法務局発行ですので、受け入れられなければ困りものですよね。)、相続税申告で税務署へ提出する、または預貯金の解約の際に金融機関に提出した際に、受付担当者がその存在を認識しておらず、『被相続人と各相続人の戸籍謄本等がなければ手続きできません。』と突き返されたり、『確認します。』とかなり時間を取られたりすることが多々あったようです。
昨今はようやく多くの機関にその存在が周知されたようで、大分スムーズに手続きをおこなえるようになりました。
ここで今いちど、申請から活用法について触れてみたいと思います。
法定相続情報証明制度はその名前の通り、被相続人と各法定相続人についての情報を証明する制度ですので、相続人のみが利用可能です。主に次の手続きでの利用が考えられます。
・不動産登記(相続登記)
・預貯金の名義変更や解約
・株式の名義変更や解約
・投資信託の名義変更や解約
・相続税申告
未だ対応していない一部の金融機関を除けば、必要な戸籍謄抄本の束の代わりに法定相続情報一覧図の写しを提出をすることで各機関での手続きが可能です。
必要書類及び手続は下記の通りです。
≪必ず必要となるもの≫
・被相続人の出生~死亡までの戸籍謄本と除籍謄本の全て
・被相続人の住民票の除票または戸籍の附票の除票
・相続人全員の現在の戸籍謄抄本
・申出人となる相続人の氏名と住所を確認できる公的書類
上記公的書類については、それぞれ本籍地の役所にて(住民票の除票のみ、被相続人の最後の住所地の役所)取得する必要があります。これらの書類は一覧図の交付とともに還付されます。
申出人を証明する公的書類については、住民票記載事項証明書(住民票の写し)・戸籍の附票・運転免許証のコピー・マイナンバーカードの表面のコピー(コピーには自署での『原本と相違ない』の旨を記載し、押印する)を提出します。こちらは還付されず、原本出し切りとなります。
また、法定相続情報一覧図に相続人の住所を記載する場合には、各相続人の住民票記載事項証明書(住民票の写し)の提出が必要となります。こちらは希望すれば還付してもらうことが可能です。
法定相続情報一覧図には、被相続人と法定相続人全員の関係が分かるように記載します。
このとき、既に亡くなっている相続人に関しては続柄のみ記載し、代襲相続が発生(相続人が被相続人より前に亡くなっていて、その者に更に相続人がいる場合)している場合、亡くなった相続人は「被代襲人」と記載し、被代襲人の相続人は「代襲相続人」という扱いとなります。
(詳細は法務局サイトの『主な法定相続情報一覧図の様式及び記載例』よりご確認ください。)
また、数次相続が発生(被相続人よりも後に相続人が亡くなっている場合)している場合、法定相続情報一覧図は一つにまとめることが出来ませんのでご注意ください。
①②の書類を法務局に提出するために、所定の形式での申請書を用意する必要があります。
フォーマット、記載例・注意事項については下記をご参照ください。
①~③の全てを用意し、管轄の法務局・出張所へ提出します。こちらは窓口・郵送どちらでも申請可能です。
≪申請可能な法務局・出張所≫
申出が受理されると、約一週間ほどで一覧図が交付されます。(不備があった場合や時期によって交付に要する時間は異なりますのでご注意ください。)
窓口で交付を受けるには申出書に押印した印鑑を持参します。
郵送で申出した場合、返信用封筒と切手を同封しなければなりません。
法定相続情報証明制度を利用する最大のメリットは、各相続手続きを同時並行で進行できることです。
従来の相続手続きでは戸籍謄抄本・除籍謄本等の原本を使った手続きの為、相続財産が多岐にわたると多大な時間を費やす必要がありました。
法務局の登記申請で戸籍提出→返送後、金融機関Aへ提出→返送後、金融機関Bへ…
上記のように各手続きが終了してから次の申請をするため、前の手続きが長引くほど時間がかかってしまいます。
法務局の登記申請&法定相続情報一覧図の交付申請
→返送後、金融機関Aへ提出(同時進行)
→返送後、金融機関Bへ提出(同時進行)
→返送後、証券会社Cへ提出(同時進行)
↑必要通数分申請することで、同時並行で手続きが可能となり、大幅に時間短縮できます。
相続税申告が必要な場合、相続発生後10ヶ月以内に申告するという時間制約があるため、手続き回数が多ければ多いほどこの時間短縮効果は大きく感じられるでしょう。
デメリットは、
・法定相続情報一覧図と申出書の作成・申請をすること
・相続人の住所地が変更になった場合はその書類を追加して各申請をしなければならない
が挙げられますが、この制度を利用しなかったとしても各手続に必要な書類等に変更はない(原本還付が不可な機関があった場合、むしろさらに取得の手間がかかる)為、特筆すべき点は無いように思います。
法定相続情報一覧図は、金融機関によっては有効期限があるケースもあります。(取得後6ヶ月以内など)
このとき、再交付を受けられるのは、申出人だけで、他の相続人は受ける事が出来ません。
再交付可能な期間は、申出の翌年から起算して5年間となっており、再交付に関しても費用はかかりません。
法定相続情報一覧図の交付申請は相続人以外でも親族代理人の他、資格者代理人(司法書士・行政書士・弁護士・土地家屋調査士・社労士・弁理士・海事代理士)を指定することもできます。
特に不動産の相続が絡んでくる場合、最終的に登記をできるのは司法書士のみですので、(弁護士も登記は出来ますが、争いがない場合の遺産相続登記を受任するケースはごくわずかと言えるでしょう。)登記と合わせて依頼するケースが多いようです。
このように利用価値の高い法定相続情報証明制度ですが、この制度を利用するしないに関わらず、相続手続きをやるにあたって、避けては通れないのが戸籍取得にかかる労力です。
普段滅多に必要のない自分の戸籍を取得するのですら、役所で困惑した経験はありませんか?
これがあまり関わりのない相続人や、被相続人の昔の本籍地を調べるとなると、余計億劫になってしまうものです。
当法人にご依頼を頂いた相続人様でも、一度はご自身で頑張ってみたものの、あまりに複雑で昔の戸籍の読み方が分からず、最終的に諦めて頼みに来た、という方が多くいらっしゃいました。
時間に限りがある相続手続きで後々後悔されないよう、是非一度目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまでご相談ください。
遺言が無効となったケース~公正証書遺言編~ (2020.05.08)
前回に引き続き、遺言が無効となったケースで、今回は公正証書遺言を取り上げてみたいと思います。
公正証書遺言が無効となるケースとしては、全体の件数に対する割合としては非常に少なくなる傾向があります。
なぜならば、公正証書遺言は法律の専門家である司法書士と公証人が、遺言者本人からヒアリングした内容に沿って打ち合わせの上、作成を進めていくからです。
司法書士・公証人が関与すれば、死後の不動産の名義変更の観点を踏まえながら、不動産等の財産について、登記簿謄本・評価証明書等公的書類を取り寄せていく為、無効となるケースは皆無と言っても等し差し支えないでしょう。
しかし、稀に無効となるケースで、代表的なものが2つほどありますので取り上げてみます。
①遺言作成時に遺言者本人が認知症等を患い、遺言能力がないと判断される場合
②遺言作成時に、司法書士等の専門家が公証人との間に入らず、本人と公証人のみで遺言作成がなされた場合
①については、従来から問題視されているのですが、私見を述べると、「避けられない」と言っても過言ではないかと思います。
なぜなら、公証人は医療の専門家でない為、『あなたは認知症であるから遺言をする能力がない』と判断が出来ないからです。
実務上、本人を目の前にしてこの事を告げるのは非常に勇気のいることで、人道的な観点からも非常に繊細な事柄なのです。
軽度の認知症患者は、通常の生活が出来て、必要最低限の質問にもハキハキと答えられる傾向にあり、初回の会話の印象では通常人となんら変わりはありません。
しかし、ずっと会話をしていると、同じことを何度も繰り返し発言したり、重要な財産の処分等はする能力がない場合が、一定程度あるのです。
実際の公正証書遺言の作成は、余程難しい遺言内容でない限り、最低限の本人確認をしたうえで、遺言内容を読み上げて終了します。
そこでは必要以上に認知症であるか等の確認は行われません。
ですので、相続発生後に遺言無効確認訴訟を提起された場合、当時の被相続人の状態によっては一定程度の無効確認判決が出てしまうのです。
ここで、一定程度という表現を使いましたが、認知症だから全てが無効となるわけではないのです。
遺言無効確認訴訟においても裁判官は、「公証人が関与して作成している遺言であるから、有効なのではないか?」との推測から入っていくのが通常です。
また、民法では遺言は15歳になれば出来ると規定されていることから、完全な成人と比べて、判断能力が乏しくても、遺言は有効との推測が働いていきます。
仮に、訴訟提起をした相続人が、当時の遺言者のカルテを主治医から取り付け、遺言能力がなかったことを立証していけば話は変わる可能性はありますので、ここでは一定程度と表現を留めておきます。
カルテが出てきた場合でも、認知症であったから即時無効との判断が下される訳ではなく、当時、遺言者が置かれていた事情、遺言を書くに至った動機・経緯、遺言の内容等を総合考慮して判断が下されます。
上記から言えることは、まずはご高齢で遺言をされる場合、きっちりと医師の診断書を取り付けることが重要かと考えます。
医師の診断書を取り付けるのは、実務上困難を伴う事ですが、医師に粘り強く交渉をしてみましょう。
また、遺言本文以外の事項に、付言事項(法的効力のないメッセージのようなもの)を盛り込むことが出来ますので、どうしてこういった遺言内容にしたのか、経緯や動機を出来るだけ本人の言葉で表現していく事もお薦め致します。
次に②について取り上げますが、②の場合で無効となるケースはさらに稀です。
正確には無効と言うよりも、有効な遺言だけれども、公証人が的確にアドバイスをせずに作成したが為に、手続きに利用出来なくなったケースです。
実際の実務で、使えなかった事案を1つ取り上げてみます。
『遺言者●●は、遺言者の長男●●が遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看ることを条件として、遺言者の財産一切を相続させる。』
との遺言がなされたケースで、遺言者死亡後に不動産の名義変更を長男から依頼されました。
上記事案での遺言内容のうち、最大のポイントは条件と言う文言です。
この遺言を用いて、不動産の名義変更をしようとした場合、遺言者の妻の生活の面倒一切を看た事を法務局に立証しない限り、法務局は手続きをしてくれません。
さあ、どうやって立証するのでしょう?
生活の面倒一切を看ることという抽象的事実の立証は、非常に困難を伴います。
法務局は裁判所と違い、過去の実質的な事実認定をすることに不慣れであり、登記申請前に相談を持ち掛けたところ、案の定、どういった書類を付ければ条件が成就したかを判断しかねるとの理由で、手続きを受付けられないとの回答が返ってきました。
上記の様な内容での遺言を希望する方も、中には一定数いらっしゃるのが事実です。
そこで、我々司法書士が遺言作成の相談を受けた場合は、死後の不動産の名義変更まで想定して、負担という文言を使っていきます。
実際の遺言条項では、下記のとおりとなります。
2.前条の負担として、長男●●は遺言者の妻●●の生活の面倒一切を看なければならない。
といった具合に作成していきます。
負担という文言を使えば、前記のような条件成就の立証書類は全く不要となります。
実質的な意味内容は同じでも、条件と負担とでは、民法上の扱いが大きく変わってくるのです。
遺言者本人と公証人が直接遺言を作成することは、不動産の名義変更をイメージすることが困難な為、お薦めできないといえる事案でした。
いかがでしたでしょうか。
遺言作成をする場合、出来れば、専門家を関与させて作成を進めたほうが無難であるといえますので、遺言を作成しようとされる場合は、まずはご相談されることをお薦め致します。
そして遺言や相続手続は、相続・生前対策に特化した事務所でなければ、失敗する事例が後を絶たないのが現状です。
当法人では、相続に特化した資格者が専門チームにてご対応いたします。
是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談下さい。
遺言が無効となったケース~自筆証書遺言編~ (2020.05.01)
前回までのトピックスで、遺言の種類と書き方について取り上げてみました。
今回は、過去に扱った事案から、遺言の有効・無効の判断について触れてみたいと思います。
自筆証書遺言の場合、形式的有効要件として、全文自署(一部財産目録は除く)・日付・氏名・押印が無ければ無効となることは、前回までの記述で触れていきましたが、過去に扱った事案で、自筆証書遺言が実質的に無効となったケースを取り上げて行きたいと思います。
自筆証書遺言に限って言えば、改ざんや偽造が立証され無効となるケースは稀にあります。
以前に取り扱った事案で、下記のようなケースがありました。
90歳の老人が2016年8月20日に死亡し、遺言が後日、自宅金庫から発見され、その字体が明らかに90歳の老人には当然書けないだろうと思われる、楷書で書かれていたケースです。
その遺言には、『長男に全ての財産を相続させる。』との内容が記載されていました。
更に後日、日付を異にし、遺言内容も全く異なる別の遺言が発見されました。
その遺言には、『長女に全ての財産を相続させる。』との内容が記載されていました。
その遺言には、震えるような手で書いたと推測される、ミミズが走ったような文字で記載がなされていました。
両遺言の作成日付は、長女へ相続させるとした遺言が2016年8月1日付、長男へ相続させるとした遺言が2016年8月16日付。
民法では、二つ以上の遺言の内容が異なる場合、発見した日付ではなく、作成された日付が後の遺言の方が形式的に有効となります。
したがって、上記事案においては、2016年8月16日付の長男へ相続させるとした遺言が形式的に有効となります。
しかし、後に発見された長女へ全て相続させる旨の遺言と、先に発見された長男へ相続させる旨の遺言を見比べると、明らかに字体が違うのです。
遺言者は、死亡直前に末期の肝臓がんに侵され闘病生活を行い、生死を彷徨うような状況であった為、当然、長男へ相続させるとした遺言は、遺言者が本当に自署したか疑義が残ります。
この点に付き、法務局での遺言を利用した不動産の名義変更・金融機関の預貯金解約等は、形式的に審査を進めますので、上記事案について長女への遺言が有効で長男への遺言が無効であるとの実質的判断は一切されません。
司法書士の立場からしても、個々のご家庭の状況や歴史を判断することが困難な為、形式的に判断をせざるを得ないのが現状です。
しかしながら、明らかに不自然な上記事案につき、依頼者である長女に弁護士を紹介し、遺言無効確認訴訟を提起した結果、訴訟の継続中に長男が遺言を偽造したことを自白し、長男へ相続させるとした遺言は無効となりました。
遺言を偽造した者は、民法上相続欠格者(相続する権利をはく奪された人)として扱われる為、当該長男は相続人でないものとみなし、無事長女へ相続させる手続きを終了させました。
遺言は、公正証書遺言・自筆証書遺言に関わらず同等の効力があります。
そして、二つ以上の遺言がある場合でその遺言内容が異なる場合は、後の日付の遺言が有効として扱われます。
実際の手続きにおいては、字体等の実質的な部分に触れず審理が進められる為、今回取り上げた事例のように疑義が生じる場合は、遺言無効確認訴訟等も検討してみても良いかもしれません。
遺言の種類と書き方~公正証書編~ (2020.04.30)
前回のトピックスで自筆証書遺言について触れましたが、今回は公正証書遺言の作成方法等について触れてみたいと思います。
司法書士や弁護士等が、遺言の相談をされた場合、まず提案するのが公正証書遺言の作成と言っても過言ではないでしょう。
数ある遺言書の中で、なぜ司法書士や弁護士は公正証書遺言を薦めるのでしょう?
それは、遺言者や遺言者のご相続人に、それほどのメリットがあるからなのです。
公正証書遺言との対比をするため、自筆証書遺言のデメリットを各種取り上げてみましょう。
まず自筆証書遺言を書く場合、
①全文自署・日付・氏名・押印が無い以上、無効との判断が下される可能性があり、実際、無効と判断された遺言は過去に数多く存在します。
また、前記の有効要件をクリアしても、
②不動産の表記が住所で特定されている(法務局の名義変更手続きは、地番・家屋番号と言った住所とは違う特定方法が必要)等、法務局の手続き上不備があり、有効だけれど手続き上受理されないといったケースは多々あります。
更に面倒なのは、
③自筆証書遺言は、遺言者の死亡後、遺言を発見した相続人又は遺言の保管者において、遅滞なく遺言者の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ『遺言の検認』という手続きを経なければなりません。
この『遺言の検認』手続きを行い、検認調書を遺言に合綴してもらった後でなければ、正式な手続きに使っていく事が出来ないのです。
もちろん、遺言の効力は(有効・無効は別として)、遺言者の死亡を機に発生していると言えるのですが、不動産の名義変更・預貯金等金融資産の相続手続きには、検認が終了していなければ、実務上受理されない扱いとなるのです。
前置きが長くなりましたが、公正証書遺言の場合、上記の①~③のようなリスクや手続きは一切必要がありません。
公正証書遺言は、遺言者が遺言の内容・趣旨を公証人(公証役場所属の公務員であり、裁判官OB・検察官OBが大多数を占める)に告げ、公証人に遺言を作成してもらい、出来上がった遺言を公証人が遺言者に読み聞かせることによって作成が完了していきます。
前述の公証人とは、司法試験を突破しているれっきとした国公認の法律家であり、公証人の所属する公証役場とは、言うなればミニ裁判所を指します。
各種の法律的な書面(遺言・売買契約書・賃貸借契約書・金銭消費貸借契約書・和解契約書・離婚協議書等)を公証役場で、公証人関与のもと作成することによって、その書面は公文書となり、有効性・証明力は100%に近いものとなります。
前記①②のような有効要件の可・不可や表記ミス等は原則防止出来ますし、何しろ証明力が高く、公正証書遺言が公証役場にて半永久的に保存されることを鑑みて、前記③のような検認手続きは一切不要となります。
このような、各種メリットを考えると司法書士等の専門家は、遺言作成の相談を受けた場合、公正証書遺言作成をお薦めしているのです。
では、公正証書遺言作成の流れですが、前述したとおり、作成してくれるのは公証人ですが、遺言の内容・趣旨を考案するのは、遺言者本人であり、この点については公証人は具体的アドバイス・提案をすることはまずありません。
綿密に考えて、遺言の内容・趣旨を伝えないと、ご希望通りの遺言が作れない場合があります。
この遺言の内容・趣旨を正確に伝えることが、簡単そうに見えて意外と難しいのです。
特定の相続人一人に、遺産のすべてを相続させる旨の遺言を書く場合、必ず他の相続人の遺留分(法的に認められた最低限の相続分)を侵害し、後々トラブルを招く恐れがあり、遺言の趣旨を実現できない場合があります。
また、遺言者より遺産を相続する相続人が先に死亡する場合もあり、その場合、当該相続人へ相続させる旨の遺言は無効となります。
これは、遺言で、遺産の取得を指定された相続人(法律上、受遺者と呼んでいきます。)に子供がいる場合でも、特別な文言が記載されていない限り(予備的遺言と呼びます。)同様の結果となります。
こういった事態を防ぐため、相続を専門とする司法書士が所属する当法人では、公正証書遺言作成の際、遺言者と公証人の間に入って、遺留分請求に対抗する提案や遺留分を侵害しない遺言内容の提案、遺言者より受遺者が先に亡くなった場合を想定して、予備的遺言の提案をする等、遺言が無効にならないよう、様々な工夫・提案をしていきます。
費用については、遺言作成に必要な戸籍・評価証明書等取得の為の実費、司法書士報酬・公証人報酬が発生しますが、費用をかけて作成していく価値は充分にあると言えるでしょう。
遺言を書こうとご検討されている方は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、まずお気軽にご相談ください。
遺言の種類と書き方~自筆証書編~ (2020.04.28)
わが国の遺言の種類・方式は、民法に数多く規定されておりますが、感染症で隔離施設に隔離されたり、船舶事故等で緊急に船舶内で遺言を書いたりする場合を除き、通常の場合ですと下記の3種類の遺言の方式から選択することが一般的です。
●自筆証書遺言
●公正証書遺言
●秘密証書遺言
上記のうち③の秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも公開せずに秘密にしたまま、公証人に遺言の存在のみを証明してもらう遺言のことであり、通常この方式を選択される方は、ほぼいらっしゃいません。
では、実務で司法書士が良く目にする①の自筆証書遺言、また、司法書士がよくお客様に相続対策で提案する②の公正証書遺言の方式・書き方について触れてみたいと思います。
公正証書遺言についてのトピックスはこちら
⇒【遺言の種類と書き方~公正証書編~】
自筆証書遺言は、下記の要件がすべて満たされていなければ、問答無用で無効となりますので、事前に司法書士等の専門家にご相談しておく事をお薦めします。
●日付の記載をいれる
●氏名の記載
●押印があること
※上記のうち、全文を自署する要件のみ、2019年1月13日から施行された改正民法により方式が緩和され、遺言の目的とする財産の記載については、登記簿謄本の写しや通帳の写しを添付(各写しのページ毎に氏名と押印が必要)することで、自署の代わりとすることが可能となりました。
上記要件は、あくまで遺言書としての有効要件であり、要件を満たしていることで遺言者の死後の不動産の名義変更や預貯金の解約等の諸手続きに確実に対応出来るか否か、については全く別問題となりますので、手続きを見据えた書き方というものが、非常に重要となります。
また、公正証書遺言を除き、遺言は遺言者の死亡後に、家庭裁判所による検認手続き(改ざん等を防ぐ証拠保全手続き)が必要となりますので、どうしても費用をかけずに自力で書きたいという方を除いては、公正証書による遺言作成の方が効果が絶大と言えるでしょう。
それでは、自筆証書遺言の実際の書き方について見ていきますが、
書き方はシンプルに、誰に何を渡したいかを記載していればそれで充分です。例を挙げると、
所在 新宿区●●
地番 ●●番
地目 ●●
地積 ●●㎡ ...』
と言った具合です。
当たり前の様に感じるかもしれませんが、ここで注目すべきワードは『相続させる』との文言です。
多くの遺言には妻●●に『あげる』『与える』『贈与する』『譲る』との文言が書かれていることが少なくありません。
また、『遺贈する』との難しい表現をされているケースも多々あります。
実は上記の様な文言、相続手続きをする司法書士を非常に悩ませる文言なのです。
上記の、『遺贈する』はもちろんのこと、『あげる』『与える』『贈与する』『譲る』との文言は、不動産の名義変更や預貯金の解約をする場合に、法的に遺贈と解される余地があり、実際に相続手続きをする際、遺言とは全く関係の無い相続人に協力を求めなければいけない場合が出てくるのです。
実際は、遺言者の置かれていた当時の状況・遺言全文から読み取れる遺言者の合理的な意思を推認・解釈して、手続きの手法を検討することになります。
では、遺贈と相続との違い、どのような意味が含まれているのか?
民法の考え方では、「遺贈とは、遺言により自己の財産を『相続人でない他人』に与える『処分行為』である。」と解釈されています。
ここで一旦、遺言から離れて考えてみましょう。
例えば、ご自身のお父様が、生前中にある物を他人にあげるなどの処分行為をしたまま、その履行をせずに死亡した場合、お父様がなされた生前の処分行為の履行義務は相続人全員に引き継がれます。
その結果、相続人全員の協力のもと、相手方に物の引き渡しをしなければならないという事態を招くのです。
遺贈も、自己の財産を『相続人でない他人』に与える『処分行為』と解されているので、上記の例と何ら変わりがなく、遺言の効力が発生した瞬間(すなわち遺言者の死亡の時)に、その財産の移転義務が相続人全員に承継されます。
したがってこの場合、遺言の内容を実現する為には、原則、相続人全員の協力が必要となるのです。
遺言は実務上、遺言者が死亡したあとに、相続人の内の一人から判が貰えなさそうと言った、何らかの理由で作られるケースが多くみられます。
せっかく妻に一切の財産を与えたくて書いた遺言に、『遺贈』との文言が使われたが為に、不仲の長男の実印・印鑑証明書を要する事態になったのでは元も子もありません。
相続人の一人に対し、『相続させる』との文言を使って遺言を書いた場合は、基本的には、上記の様な事態には陥りません。
法的な効果や、実際の手続きに対応出来るかは、相続に精通した司法書士にしか判断できないものです。
遺言を書こうと思った時、また、自筆証書遺言で相続手続きをしようと思った際、当法人にご相談頂ければ、専門の司法書士が全面的にバックアップをさせていただきます。
万が一、ご自身のお父様等が『遺贈する』との文言を用いて自筆証書遺言を書かれていた場合でも、あきらめる必要はありません。
当該遺言が、相続人の1人への遺贈である場合、当法人の司法書士が、関係各所に交渉・折衝をし、遺贈手続きの簡便な方法を提案したり、場合によっては一般的な相続手続きに転換して手続きを行った事案が過去に多数存在します。
まずは目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お早目のご相談をされることをおすすめ致します。
「配偶者居住権」の施行とその効果 (2020.04.27)
民法の大改正において、相続法に関して新たに「配偶者居住権」が新設されました。
令和2年4月1日よりいよいよ施行となりましたが、ここで改めてどんな内容なのか、どんな効果があるのか、などを掘り下げてみましょう。
配偶者居住権とは・・・『残された配偶者が被相続人の所有する建物(夫婦で共有する建物でも可)に居住していた場合、一定の要件を充たすときに、被相続人が亡くなった後も、配偶者が賃料の負担なくその建物に住み続けることができる権利』です。
具体例で見てみましょう。
Aさんはつい先日、夫に先立たれてしまった。別居している子供がおり、相続財産は自宅と預貯金だけであった。
古家ではあるが、立地は戦前から所有している好立地であるため、相続税が発生してしまうようだ。
まず、配偶者であるAさんが自宅を相続すると、法定相続分通りに相続財産を分配するとなった場合、子供に自宅以外の財産である預貯金が渡る可能性が高いため、Aさんは、家はあっても貰える預貯金が大きく減ってしまう事になります。
分配財産がなんとか預貯金から賄えたとしても、相続税の支払いが必要となるため、払い切れないとなれば、自宅を売って支払わなくてはならないでしょう。
延納、物納といった方法もありますが、いずれの場合も、遺されたAさんは今後の生活資金が不足したり、住み慣れた家を手放す事態にもなりかねません。
このような場合の配偶者の居住権を保護する目的で、配偶者居住権が新設されました。
これは、不動産の所有権を、配偶者が死亡するまで住み続けられる『配偶者居住権』と、子供など、他の相続人が居住権以外の所有権だけを持つ『負担付き所有権』との二つの権利に分ける制度です。
前述の事例では、他の相続人である子供と協議し、折り合いがつけば問題なく配偶者居住権を設定できそうでしたが、中には、家は他の相続人が相続し、残された配偶者が直ちに住居を退去しなければならない、といったケースもあるでしょう。
これは、残された配偶者にとっては大きな負担となると考えられます。
そこで、夫婦の一方の死亡後、残された配偶者が、最低でも6か月間、無償で住み慣れた住居に住み続けられるようになりました。
これを『配偶者短期居住権』と呼び、下記のように区別されています。
●配偶者居住権・・・・配偶者が死亡するまで(10年、20年と限定することもできる)建物に居住できる権利(要件あり)
●配偶者短期居住権・・一定期間(少なくとも6ヶ月間)建物に居住できる権利(要件無し)
※配偶者短期居住権に関して、新法の施行日以後は無条件でこの効果が発生します。
配偶者居住権の設定にはいくつかの要件があります。
●相続が発生した時点において、配偶者がその建物に居住していること
●遺言で配偶者に配偶者居住権を遺贈する旨を記載している、または、遺言がない場合は相続人間の遺産分割協議において配偶者居住権を取得する旨を遺産分割協議書に記載していること
●配偶者居住権設定の登記がなされていること(配偶者と建物所有者による共同申請)
上記の要件を充たすことが必要となります。
メリットとしては次の2点が挙げられます。
当然ながら、一番のメリットとしては、配偶者が賃料等の支払なくそのまま慣れ親しんだ建物に住み続けられる、という点です。
更には、建物所有者の承諾を得れば、第三者に居住建物の使用又は収益をさせることもできますので、例えば、使用しなくなった建物を第三者に賃貸することで賃料収入を得て、介護施設に入るための資金を確保することもできます。
夫婦に相続が発生すると、配偶者が不動産を相続するケースが多いですが、配偶者居住権を設定する事で、建物の所有権を取得するよりも低い価額で居住権の確保が出来ます。
これにより、預貯金等のその他の遺産をより多く取得することが出来ます。
【例 2,000万円の評価額の建物と3,000万円の預貯金を妻と子供1人で遺産分割する場合】
(法定相続分での分割と仮定します。また、配偶者居住権の価値算定についても仮定での評価額となります。)
妻が建物の所有権を得る場合…
建物(2000万)+預貯金(500万)となり、預貯金も分配こそされますが、今後の生活を考えると少し不安が生じてくる金額です。
配偶者居住権を設定した場合…
配偶者居住権(1000万)+預貯金(1500万)となり、今後の生活にも余裕を持てる金額でしょう。
※婚姻期間20年以上の夫婦間における居住用不動産贈与に関する優遇措置が適用となる場合、生前贈与した居住用不動産については相続財産には含まれないため(2019年7月1日より施行)、配偶者居住権を設定しても、原則として遺産分割で配偶者の取り分が減らされることはありません。
このように配偶者にとって非常に手厚い今回の法改正ですが、注意すべき点もあります。
●配偶者居住権設定の登記の際に、配偶者と所有者での共同申請となる。
配偶者居住権は施行日の2020年4月1日よりその効力が認められますので、これより前に書かれた遺言書を用いて配偶者居住権の設定する事はできません。
また、配偶者居住権の設定された不動産は売買対象としてはかなり不利となる(配偶者が住んでいるため、仮に購入しても済むことが出来ない・賃貸に出せない)ため、所有者となる者としっかりと話し合う必要があるでしょう。
なお、建物の取り扱いとしては賃貸しているのと同様に、配偶者が使用・修繕の義務を負う他、居住している建物やその敷地の固定資産税等を負担する事になります。
このようにまだまだ始まったばかりの配偶者居住権ですがだいたいのイメージは掴めましたでしょうか??外せないポイントとしては、
◎スムーズな配偶者居住権の設定には遺言書を書いておくことがベター!
の2点が挙げられます。
これらをふまえ、新制度の利用を検討されている方は、目黒区学芸大学、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで一度ご相談ください。