法定後見の3つのレベルについて (2022.01.25)
2.成年後見について
2-1.成年後見人に認められた権利
3.保佐について
3-1.保佐人の代理権の性質
3-2.代理権付与の申立てとは
4.補助について
4-1.後見人・保佐人と異なる補助人の権限について
4-2.もし『同意』が得られなければ?
4-3.補助人に付与される同意権の範囲
5.まとめ
法定後見制度とは、認知症等により判断能力が低下してしまった方が生活するうえで困らないために、代わりに財産の管理や契約行為をする人=「後見人」を、家庭裁判所を通して選任してもらう制度です。
この制度の趣旨は「本人の自己決定を尊重」したうえで、日常生活に困難が生じないように保護することにあります。
しかし、一概に「判断能力の低下」といっても、その程度や質は人それぞれ異なります。
軽い物忘れから自分の財産がわからなくなり、管理が難しいだけの比較的軽度の方から、すでに言葉を理解して返事をすることすら難しい場合まで、様々な方がいらっしゃいます。
そのような方をすべて一律・同列に規定していくことは、本来の後見制度の趣旨から外れてしまうと言えるでしょう。
例えば、軽い物忘れ程度の方に対して、高齢者施設の選別・入所契約、アパートの賃貸借契約等、比較的自己決定が尊重されてしかるべき場面においても、全ての契約ごとについて本人は行えず、後見人が代理で契約しなければならないとなったらどうでしょうか。
後見人と本人で意見が相違した場合、後見人が本人保護のためと称して代理で契約しなければならないとすれば、かえって自己決定を侵害しているとすら言えます。
また逆に、重度の脳機能障害の方で意思表示もできない方に対し、高齢者施設の選別・入所契約、アパートの賃貸借契約はご自身で行ってください、との制度にしてしまえば、実質不可能ですので、今度は本人保護が不十分ということになってしまいます。
このようなことが無いように、民法では成年後見制度に「成年後見」「保佐」「補助」と、3つのレベルを作っているのです。
法律上、成年後見となる方は、「精神上の障害(認知的障害・精神障害等)により、事理を弁識する能力を欠く常況にある者」とされてます。
つまり、判断能力がほぼ無い状態で、財産管理や生活の組み立てが一人では困難な場合といえます。
後見申立され、本人の状態について家庭裁判所の判断がこのような場合には、「成年後見」が選択されます。
なお、家庭裁判所は医者では無いので直接面談等で本人の状態について判断するということではなく、申立の際に提出する医師の「診断書」に基づいて、家庭裁判所が総合的に判断することになります。
診断書によって判断がつかない場合には、更に家庭裁判所選任の医師による、鑑定が行われ、より詳細に本人の状態を診ていくことになります。
成年後見の申立に関しては、本人の同意は不要です。
これは、既に本人の意思以上に保護する必要性が高い状態といえますし、本人に適切に判断する能力があるとはいえないためです。
家庭裁判所による判断で、保護が必要と認められた場合には、本人の同意がなくとも、成年後見が開始することになります。
成年後見人に対しては、「取消権」、「代理権」が認められています。
「取消権」とは、本人(被後見人)のした契約行為等(法律行為)を、後見人が取り消すことができるというものです。
後見相当の本人に関しては判断能力を常に欠いている状況ですので、本人を害する契約等を認識なく締結する恐れが常にある状態と言えるでしょう。
そこで法律上、後見人は、本人(被後見人)のした行為の全てを原則取り消すことができる、と規定しています。
これにより、例えば騙されて高額な宝石や絵画を購入した場合、家の増改築の請負契約等、本人がした行為は原則すべて取り消すことができますので、後見人としては安心です。
しかし、これには一部例外があり、「日用品の購入その他日常生活に関する行為」は取り消しの対象外とされています。
例えば、スーパーで夕食のお弁当を購入した、コンビニでお茶を購入したとの行為まで取り消せるとなった場合、お店に損害を与えてしまう恐れがあります。
また本人にも取り消しにより返還義務を負わせることにもなり、不都合が生じてしまうため、このような例外規定を設けているのです。
また、後見人はすべての法律行為について「代理権」が与えられます。
「代理権」はイメージがしやすいかと思いますが、本人に代わって本人のために法律行為を行い、その効果が本人に帰属する、というものです。
この代理権に関しては後見相当の本人の保護必要性の高さから、全ての法律行為について自動的に後見人に付与されます。
法律上、保佐となる方は、「精神上の障害(認知的障害・精神障害等)により、事理を弁識する能力が著しく不十分である者」とされてます。
つまり、判断能力が無い状態ともいえないが、著しく不十分であるため、財産管理や生活の組み立てに関して、一定の強い保護が必要といえます。
本人の状態について家庭裁判所の判断がこのような場合には、「保佐」が選択されます。
なお、本人の状態に関して申立の際に提出する医師の「診断書」に基づいて家庭裁判所が判断し、判断がつかない場合には、医師による鑑定が行われる点は、後見の場合と同様です。
保佐の申立に関しては、後見の場合と同様に本人の同意は不要です。
判断能力が後見の場合よりもあるとはいえ、この保佐の場合も、本人保護の必要性が高い状態といえますし、やはり本人に適切に判断する能力があるとはいえないためです。
保佐の場合には、民法上に規定されている重要な財産に関しての行為に関しては、保佐人の同意無く行うことができないとされています。
重要な財産に関しての行為は、下記の通り、民法13条1項に規定されています。
①原本を領収し、又は利用すること
②借財又は保証をすること
③不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
④訴訟行為をすること
⑤贈与、和解、又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること
⑥相続の承認若しくは放棄、又は遺産分割をすること
⑦贈与の申込を拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
⑧新築、改築、増築、又は大修繕をすること
⑨第602条(※短期賃貸借)に定める期間を超える賃貸借をすること
⑩①から⑨に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第17条第1項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること
①は預貯金の払い戻しを受ける行為や、貸金の返済を受ける行為、利息付の金銭貸付等がこれに当たります。
なお、利息や賃料の領収は「元本の領収」にはあたらず、被保佐人単独で行うことができます。
②は借金や、他者の債務の保証をする(保証人になる)等がこれに当たります。
なお、約束手形の振出も「借財」に当たります。
③は不動産の売買、不動産に対して抵当権を設定する、不動産の賃貸借契約の合意解除、株式や著作権の放棄等がこれに当たります。
また、高額な金銭や品物を贈与したり、通信販売等で高額商品を購入する、あるいは有料老人ホームの入所契約等もこれに当たります。
④は訴訟の提起、訴訟の取り下げがこれに当たります。
なお、相手が提起した訴訟に応訴する場合はこれには当たりません。
⑤は他人に高額な財産を贈与したり、和解や仲裁合意(紛争の判断を第三者に一任する合意)をする行為がこれに当たります。
⑥は本人が相続人になった場合に、その相続について承認や放棄をすることや、遺産分割協議を行うことがこれに当たります。
⑦は本人に利益となる贈与や遺贈を拒絶する行為がこれに当たります。
⑧は本人が所有する家屋の新築・改築、増築、大修繕をすることがこれに当たります。
⑨は民法602条に規定する短期賃貸借を超える期間に関しての賃貸借がこれに当たります。
具体的には、山林は10年、その他の土地は5年、建物は3年、動産は6か月を超える場合にこれに当たります。
⑩は例えば、本人の子ども(未成年)のために、本人が親(法定代理人)として子どもを代理して不動産売買や高額商品の購入等行った場合がこれに当たります。
被保佐人であっても親になることももちろんありますので、そのような場合に備えてこのような規定が置かれています。
以上のような行為を行うには、保佐人の同意が必要になります。
同意を得ないでした行為は、保佐人が取り消せることになります。
したがって、同意権のある行為に取消権もあるという関係になり、両者は表裏一体となっています。
保佐人の代理権に関しては、後見人とは根本が異なります。
後見人の場合には、基本的にすべての行為に対して代理権が付与されるのに対して、保佐人には代理権は基本的に認められません。
これは、被保佐人は「事理を弁識する能力が著しく不十分」ではあるものの、被後見人のように「欠く常況」とはいえないため、被保佐人自身で判断したことや決断したことを第一に尊重するべきと考えられているためです。
被保佐人に代わって保佐人が代理で決められてしまうとすれば、被保佐人の意思決定権を奪うことになってしまいます。
先述致しましたように、被保佐人が行った重要な法律行為に対しては、保佐人の同意なく行えば取り消しができるとして歯止めをかけているため、本人保護としては問題ないと考えられています。
しかし、全ての被保佐人の行為に対して一切の保佐人の代理権が認められないとしたら、不合理な場面も出てきます。
例えば、老人ホーム等の施設に入所する資金を作るため、被保佐人所有の不動産の売却や登記手続きが必要になった場合を考えてみましょう。
不動産の売却は、
●自分の所有する不動産の把握
●法務局等により不動産の登記簿謄本の取得
●権利書や納税通知書等を使って所有している不動産の確定
●土地の確定測量
●近隣の方の同意書取得の交渉
●不動産を購入してくれる買主探し
●価格の査定
●買主候補との価格交渉
●抵当権等が設定されていた場合は銀行への抹消依頼
●登記手続きのための必要書類の調査
●それらの収集
さらに上記行為を代理で専門家に依頼する場合、専門家を探して依頼する手配等々、とにかくやることが多いくて大変です。
これを被保佐人が、保佐人に代理でやってほしいと望んだとしても、代理権が無くてできないとなれば、被保佐人保護の観点から望ましくありません。
そこで、保佐申立とは別に、保佐人に対して代理権をつけてほしい旨の申し立てを行うことができます。
これは、代理権付与の申立と呼ばれるものです。
先述した被保佐人の意思を尊重することと、先ほどの例のように被保佐人保護のバランスを考えて、代理権付与の申立を行うにあたっては、被保佐人本人の同意が必要とされています。
また、どの行為に対して代理権を与えたいと考えているかを絞って、申立を行っていきます。
東京管内の場合には、申立時の書式として主だったものを既に項目でまとめてくれているので、必要なものにチェックをすれば完成するようになっています。
⇒(参考)東京家庭裁判所サイト『後見人等に選任された方へ』代理権付与の申立書【PDF】
例えば下記の要領です。
□売却
□担保権設定
□賃貸
□警備
□契約の締結、更新、変更及び解除
このように必要なもののみにチェックを入れるので、申立について同意をする被保佐人本人もわかりやすいものになっています。
項目としては、
1.財産管理関係(①不動産関係、②預貯金等金融関係、③保険に関する事項等)
2.相続関係(相続放棄や遺産分割等)
3.身上保護関係(介護や福祉サービスの契約等)
4.その他(税金の申告や登記・住民票の異動等)
5.関連手続(各事務処理に必要な支払、戸籍等の取得などの事務)
のようになっています。
被保佐人本人について必要か否かを具体的に見ていき、必要に応じてカスタマイズしていくことができます。
法律上、補助となる方は、「精神上の障害(認知的障害・精神障害等)により、事理を弁識する能力が不十分である者」とされてます。
保佐と比較すると、事理弁識能力の「不十分」の度合いとして「著しく」が抜けている、ということです。
つまり、判断能力が残っているが、不十分であるため、それを補うために重要な法律行為に関して保護をしていきましょう、といったものになります。
後見や保佐に比べるとかなり軽い状態といえ、基本的には、問題なく判断できるとされる人とさほど大きく言動や行動に違いがあるとはいえない方、がほとんどになるかと思います。
本人の状態について家庭裁判所の判断がこのような場合には、「補助」が選択されます。
なお、本人の状態に関して申立の際に提出する医師の「診断書」に基づいて家庭裁判所が判断し、判断がつかない場合には、医師による鑑定が行われる点は、後見・保佐の場合と同様です。
しかし補助の申立に関しては、後見・保佐の場合と異なり、本人の同意が必要です。
後見や保佐の場合と異なり判断能力が残っているため、本人保護の必要性よりもむしろ本人の意思が重要であり、本人の意思に反してまで介入すれば、むしろ「おせっかいの状態」となってしまうからです。
本人が必要である、保護してほしいと考えて初めて開始されるという点が、後見や保佐の場合と大きく異なるのが特徴です。
補助の場合には、単に補助が開始し、補助人が就任した、というだけでは補助人には法的には何の権限も付与されません。
補助開始の申し立てを行う場合には、同時に「同意権付与の申立」または「代理権付与の申立」、あるいはその両方をセットで行う必要があります。
「同意権付与の申立」に関しては後見や保佐と大きく異なる点になります。
つまり、後見や保佐は法的に当然に(自動的に)権限が付与されるのに対し、補助に関しては別途の申し立てが無い限り当然に補助人に同意権が認められない、ということです。
また、「取消権」に関しては、「被補助人が補助人の同意を要する行為を行う場合に、同意なく行った法律行為は取り消せる」、となっている関係で、同意権と取消権は表裏一体となっているため(保佐の項目でも書かせていただいたものと同趣旨です)、補助人には「取消権」に関しても当然には付与されず、家庭裁判所から補助人が「同意権」を付与された法律行為についてのみ、「取消権」が与えられる、という構造になっています。
要するに、『本人が判断できることは本人に任せます、本人が判断に困る内容にだけ同意権・取消権を与えますよ。』というのが家庭裁判所の見解です。
今まで後見・保佐と述べてきて、当然のように同意や取消とのお話をしていますが、改めて考えてみると、「同意」を求めなければ取り消せるということはかなり強力な権限といえると思います。
賃貸物件を探して住むのにも、保佐人や補助人等の法定代理人にわざわざ説明しなければなりません。
例えば、こんなお話があったとします。
今住んでいるアパートの大家さんがとても口うるさい人で相性が悪いので、すぐに口喧嘩になるから引っ越したい。
昔住んでいた○○駅の周辺が思い出の場所で、また住みたいと思って。それで知り合いの人に探してもらって、みつけたんだけど家賃が少し高くて△△万円。でも思い出の地だから…
こんな話をまず保佐人等にすることになります。
自身の話を聞いてほしくて話が好きな方でしたら問題ないかもしれませんが、あまり話したくないのに話して説得しないと住む家も決められない、無断で契約したら取り消されるかもしれないのです。
このような権限はとても大きいものだと思います。本人の判断能力が残っているのであれば、自分で決められるように制度設計をするべきだ、との考えがあって、この「補助」という制度ができたのです。
同意権(及び表裏一体の取消権)は強力な権限であるため、「同意権付与」の申立を行うにあたり、どのような行為に補助人の同意権を付与すべきかについては抑制的であるべき、と考えられています。
また、被補助人は被後見人や被保佐人と異なり、「判断能力が不十分」なだけであり、判断能力はあるといえるため、補助人に同意権を与えるのかどうかについては、被補助人自身にとって重大な関心事であるといえます。
そこで、これらのバランスを考えて、補助人に対し「同意権付与」の申立を行うには、被補助人本人の同意が必要とされています。
また、「同意権付与」の申立ができる行為の範囲は、民法13条1項に規定する行為の「一部」とされています。下記条文の内容をご参照ください。
①原本を領収し、又は利用すること
②借財又は保証をすること
③不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること
④訴訟行為をすること
⑤贈与、和解、又は仲裁合意(仲裁法(平成15年法律第138号)第2条第1項に規定する仲裁合意をいう。)をすること
⑥相続の承認若しくは放棄、又は遺産分割をすること
⑦贈与の申込を拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること
⑧新築、改築、増築、又は大修繕をすること
⑨第602条(※短期賃貸借)に定める期間を超える賃貸借をすること
民法13条1項は、「保佐」の項目にて、保佐が開始した場合に自動的に保佐人に付与される同意権の規定です。
したがって、これらすべての行為を補助人にも同意権があるとしてしまうと、「保佐」と同じ権限となってしまうため、これらの「一部」と規定しています。
一方、「代理権付与の申立」に関しては、基本的に補助人には代理権は付与されていないため、代理で行うことのできる権限を与えてもらうには、その旨の申立を行い、審判をもらう必要があります。
この点は保佐の項目でも書かせていただいたものと同趣旨です。
これも、被補助人の要保護性がそこまで高くないため、被補助人自身で判断したことや決断したことを第一に尊重するべきと考えられているためです。
しかし、やはり全ての被補助人の行為に対して一切の補助人の代理権が認められないとしたら、不合理な場面も出てくる点は、保佐と同様です。
したがって、必要な行為を限定し、当事者に合った形で代理権付与を行えるようになっています。
そしてやはり、代理権付与の申立を行うにも被保佐人の同意が必要になります。
付与申立の際に記載する項目は下記の通りです。
必要なもののみチェックをしていけば申立書が完成するようになっていることも、保佐と同様の書式になっています。
1.財産管理関係(①不動産関係、②預貯金等金融関係、③保険に関する事項等)
2.相続関係(相続放棄や遺産分割等)
3.身上保護関係(介護や福祉サービスの契約等)
4.その他(税金の申告や登記・住民票の異動等)
5.関連手続(各事務処理に必要な支払、戸籍等の取得などの事務)
上記項目について、被補助人本人について必要か否かを具体的に見ていき、必要に応じてカスタマイズしていくことができます。
つまり本人の権限としては、『判断能力の十分な人>被補助人>被保佐人』となっており、逆に、十分能力のある人と保佐相当の間にあたる状況の全てに対応可能なように、必要な権限の部品を自身でカスタマイズしていくという制度が「補助」といえます。
ここまで後見の3類型について述べてきました。
本人の要保護性と、本人の自由意思決定権保護の二つの要請に応えるべく、どちらかが強くなればもう一方が弱くなるという関係にあることがご理解いただけたかと思います。
後見制度として法律上3類型を用意し、様々な状況に置かれた方をまんべんなく保護していく制度となっているのです。
以下まとめの表になるので、整理して頂ければと思います。
鴨宮パートナーズでは、制度について何もご存知なくても、一から丁寧にご説明させて頂きまして、最適な制度の利用方法をご提案させていただきます。
成年後見の申し立て手続きをお考えの方は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談下さい。
賃貸不動産と相続放棄 (2021.10.28)
過去のトピックスで相続放棄に関する論点を複数挙げて来ましたが、今回は賃貸不動産と相続放棄にポイントを絞りお話ししたいと思います。
相続放棄は、家庭裁判所に始めから相続人ではなかったことを認めてもらう手続きです。
ですので、相続放棄をするまでの間に下記の行為をしてしまうと、原則的には家庭裁判所は相続放棄を認めてくれません。
◆相続財産の処分(売却、取り壊し等)
◆遺産分割協議をすること
◆相続税申告をすること
◆準確定申告をすること
◆相続債務を支払うと債権者に言ってしまったり現実に支払ってしまうこと
上記は一部の例ですが、これらの行為は相続人としての通常の行為であり、自己が相続人であることを対外的に認める行為であるので、家庭裁判所は相続放棄を受理してくれないのです。
この前提で下記の相関図と基本情報をご覧ください。
≪基本情報≫ ※被相続人父、配偶者、子供のご家庭
①被相続人には消費者金融からの数百万の借金がある
②配偶者、子供は被相続人名義で賃借しているアパートに同居
③その他プラスの財産はなし
④賃貸管理会社から賃借人の更新手続きを迫られている
⑤家財道具は全て被相続人が購入
一見すると、借金さえなければ通常のご家庭なのですが、この状況下で相続放棄をする場合、非常に難儀な法的論点が待ち構えているのです。
④の賃借人の更新手続きです。
これを行ってしまうと、被相続人が契約していた賃貸借契約上の地位を相続してしまったことになり、預けていた敷金も相続したとみなされてしまうのです。
また⑤の家財道具ですが、経済的価値のあるものを廃棄したり売却したりそのまま利用し続けると相続を承認したものとみなされかねません。
前記の基本情報を前提に相続放棄をするのであれば、まず、賃貸借契約及び敷金は引き継がず、そこに住み続けたい意思があれば新たに配偶者、子供名義でオーナーと新契約を結ぶ必要があります。
もし、住み続ける意思がなく他に移転するのであれば、滞納家賃などは連帯保証人になっている場合を除き一切支払わず、家財道具は残置したまま退去するかトランクルーム等に現状維持のまま保管する必要があるでしょう。
家庭裁判所の相続放棄の手続きは、実体調査まで踏み切らないので比較的容易に手続きが完了します。
しかしながら、後日債権者から相続放棄をするに足りない事由があったとして、民事訴訟を提起され相続放棄の効果を覆されることもありえます。
相続放棄に関する考え方は、判例が非常に少なく判断が難しいところではありますが、当法人では相続専門チームを筆頭に日々あらゆる問題に対応しておりますので、お力になれることがあるかと思います。
お悩みの際は是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談下さい。
争続(あらそうぞく)~遺産分割調停の活用~ (2021.07.06)
過去のトピックスで、疎遠である前妻の子へのアプローチのしかた、遺産分割の方法を掲載させて頂きました。
遺産分割についてのトピックスはこちら↓
今回は、遺言が無く相続人同士で相続争い(争続)となってしまった場合の手続きについて、ご案内させて頂きたいと思います。
まず、下の相続関係図をご覧ください。
【相続関係=被相続人父、配偶者、子二人、前妻との子一人】
お父様がお亡くなりになり、悲しみに暮れる中、戸籍を収集しているところ、家族には全く聞かされていなかった前妻のお子さんがいることが判明。
この場合、前妻の子を排除したまま相続手続きが出来ないものか、よくご相談をされる方がかなりの数いらっしゃいます。
遺言でもあれば、その可能性は一定程度残されていきますが、遺言が無い場合、前妻の子も列記とした法定相続人のうちの一人なので、その子を排除して手続きを進めることは出来ません。
遺言があった場合でも、どなたかが遺言執行者に選任されている場合は、遺言執行業務において法定相続人の確定作業及び全法定相続人に遺言執行者就任通知を送ることが義務付けられている為、遺言がある場合でもほとんどの場合は、上記の様な疎遠の相続人には一定のアプローチをしていく必要があります。
では、前妻の子の住所居所が判明した場合どのような方策が考えられるでしょうか?
相続の専門家であれば、まずはその前妻の子にまずは『お父様がお亡くなりになり、相続手続きにご協力頂けないでしょうか?』更に、『今後の法定相続分の主張等、相続に関しての言い分はございますか?』という内容のお手紙を送付することをご提案していきます。
この手紙の書き方が重要で、しっかりと相手方の法定相続分や相続財産になにが含まれるか等、誠意をもって手紙を書けば円満に相続手続きが進む場合がありますが、手紙の中で相続財産を故意に秘匿したりするなど、ぶしつけな手紙の書きっぷりだと、相手方に不信感を植え付けてしまい、結果として協力をしてもらえない場合が多々あります。
また、いくら誠意のある手紙の内容でも、相手方が後妻一家の事をよく思っていない場合等は、法外な代償金を要求されたり、そもそも手紙を受け取ってもらえない場合も多々あります。
このように、事案が暗礁に乗り上げてしまった場合、どう解決を図れば良いでしょうか?
答えは2つあります。
①弁護士に依頼をし、相手方と交渉をしてもらい、相手方の判子を取り付けて貰う。
②遺産分割調停を家庭裁判所に申立て、裁判所を介して話し合いをし遺産分割協議を成立させる。
※調停とは裁判所内での話し合いの場であり、家庭裁判所審判官(裁判官)と男女ペアの調停員2名、計3名で構成される調停委員会の主導のもと、紛争を解決に導いていく手続きのことを言います。
①については、依頼される方も一定数いらっしゃいますが、抜本的解決が出来ない場合が多々あると言えます。
弁護士と言えども、相手方の法定相続分を無視した交渉は出来ませんので、相手方に話を突っぱねられてしまうと交渉決裂となります。
②については、家庭裁判所は遺産分割調停が申し立てられた場合は、必ずその請求に応じる必要があり、調停が不成立となった場合は自動的に審判(裁判と同義)手続きに移行しなくてはならず、必ず解決の糸口を掴めるといえます。
むしろ、弁護士は交渉が決裂してしまうと遺産分割調停の申立てを必ず提案してきますので、自分の主張をしっかりと言える方、ある程度相続のことが分かっている方については、ご自身で裁判所で何をどう分けたい、何を取得する代わりにお金をいくら支払う等と言った主張を展開されるのをお勧め致します。
調停員は、40歳以上の方で社会的に思慮分別のある方が、裁判所に選定されていますので、調停員の意見を互いに聞き入れれば、解決に向かうことも多々出て来ます。
当事者同士で、いがみ合い主張しあっていてもらちが明かないと言った場合は、調停制度を利用して、第三者に入ってもらうことで円滑に遺産分割をスムーズに進めることが出来ます。
当法人の相続専門チームでは、争続(あらそうぞく)となった場合の遺産分割調停の申立てのサポート、調停の流れのご説明、必要書類の収集精査等もお手伝いさせて頂いております。
疎遠のご相続人がいらっしゃる場合でも、是非お気軽にお問合せ下さい。
相続手続・生前対策をお考えの方は、渋谷区マークシティ、目黒区学芸大学駅の司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、まずは一度、お早目のご相談をお薦め致します。
成年後見制度の申し立てのために家庭裁判所に提出する書類 (2021.06.16)
2.提出書類一覧
3.各書類の説明
①後見開始申立書
②申立事情説明書
③親族関係図
④本人の財産目録及びその資料
⑤相続財産目録及びその資料
⑥本人の収支予定表及びその資料
⑦後見人候補者事情説明書
⑧親族の意見書(同意書)
⑨医師の診断書及び診断書付票
⑩本人確認情報シート
⑪本人の戸籍謄本
⑫本人の住民票(又は戸籍の附票)
⑬後見人候補者の戸籍謄本
⑭後見人候補者の住民票(又は戸籍の附票)
⑮本人が登記されていないことの証明書
⑯愛の手帳のコピー(お持ちの方のみ)
成年後見制度に関して、家庭裁判所や各福祉機関によって周知活動をしていることもあり、年々制度の名前をご存じの方が増えてきていると感じます。
ご家族が認知症その他によって判断能力が低下してしまった場合に、ご自身で調べられて、家庭裁判所へ申立を行う方もいらっしゃるかと思います。
成年後見人が就任するということは、以後本人に代わって財産管理や、身上監護を行っていくという、本人に重大な変更を伴うため、裁判所も厳格な手続きを要求しています。
そのため、提出する書類は多岐にわたります。
今回は、必要書類を一つ一つご紹介していきたいと思います。
成年後見の申し立てのために、裁判所には下記の書類を提出する必要があります。
なお、家庭裁判所によって若干異なる部分がありますので、今回は東京家庭裁判所の例をご紹介させていただければと思います。
①後見開始申立書
②申立事情説明書
③親族関係図
④本人の財産目録及びその資料
⑤相続財産目録及びその資料
⑥本人の収支予定表及びその資料
⑦後見人候補者事情説明書
⑧親族の意見書(同意書)
⑨医師の診断書及び診断書付票(3か月以内のもの)
⑩本人情報シート
※以上は裁判所にて書式を入手できるものです
⑪本人の戸籍謄本(3か月以内のもの)
⑫本人の住民票(又は戸籍の附票)(3か月以内のもの)
⑬後見人候補者の戸籍謄本(3か月以内のもの)
⑭後見人候補者の住民票(又は戸籍の附票)(3か月以内のもの)
⑮本人が登記されていないことの証明書(3か月以内のもの)
⑯(お持ちの方のみ)愛の手帳のコピー
細かい点や、提出書類の書式は各家庭裁判所により異なる場合がありますので、事前に確認が必要になります。
①後見開始申立書
申し立てを行うにあたって、その大元になる申請書になります。
申し立てを行う申立人、後見人を就けたいご本人の記載、及び申立を行う理由、後見人候補者等を記入していきます。
後見人の候補者をご親族(例えば子や配偶者)でと希望される方も多いかと思います。
しかし、裁判所はその候補者を選任するとは限りません。
ご本人の財産の多寡や、今までの看護状況、病状、親族間の意見の相違が無いか等を総合的に判断し、候補者を選任するかを判断していきます。
場合によっては、候補者が選任されたうえで、後見監督人が選任される場合や、後見制度支援信託をするように指示されてしまうこともあります。
(こちらについて詳細は別トピックスにてご紹介いたします)
なお、候補者がいない場合には、候補者欄は空欄にて提出します。
その場合、家庭裁判所が所持している候補者名簿から職権で後見人を選任することになり、多くの場合、弁護士や司法書士が選任されます。
②申立事情説明書
こちらの書面では、ご本人の状況を詳細に記載します。
●現在どこに居住しており誰の支援を受けているのか(または受けていないのか)
●施設に入っている場合にはその連絡先
●ご本人の略歴(どの学校を卒業し、どこに勤めていたか等)
●病歴、介護(障害者)認定の区分け
●本人の親族と、その方の後見申立に対する意見(賛成しているか等)
●後見人候補者が後見人にふさわしい理由
等々、詳細に記載する必要があります。
ご本人のことを最もよく知っておられる方に記入して頂くのが望ましいといえます。
この書面が最も記入欄が多く、記載をどうすればいいか戸惑われる方が多いようです。
③親族関係図
ご本人を基準に、相続関係がいかになっているかを記載します。
裁判所は、将来ご本人が亡くなった場合、本人の相続人は何人いて、その方たちが後見申立について承知しているのか、また財産管理・身上監護を行っていくうえで協力を得られる親族がいるのか等の確認をしているものと思われます。
当法人では、後見申立のお手伝いをご依頼を頂いた場合には原則、委任状を頂き、相続関係を把握するための戸籍収集を致します。
相続関係を把握しておくことは、就任後の財産管理・身上監護をスムーズに行い、事後のトラブルを防止防止するとの観点からも重要になってきます。
④本人の財産目録及びその資料
成年後見人は、基本的にご本人の財産全てを管理することになります。
そこで、申立を行う際に、どのような財産があるのかの一覧が必要になってきます。
財産とは具体的には、預貯金、株式や投資信託や国債等の有価証券、生命保険や損害保険、不動産、債権、その他負債等を項目別に記入していきます。
預貯金は、具体的にどこ銀行のどこ支店にいくらの預金があるという詳細まで記入し、有価証券も銘柄や個数、評価額まで記入します。
その他の財産も同様に、詳細に記載が必要になります。
このように、申立を行う際に提出する財産目録には、ご本人の詳細の財産の一切を記入する必要がありますので、申立を行う際には、ご本人の財産の調査が必要になります。
場合によっては、普段から財産を管理している親族に確認したり、ご自宅の中を探したり、郵便物から推察したりする必要も出てくるかと思います。
このように調査しても分からないものに関しては、後見人が就任した後に、後見人が調査することになりますので、現状で分かる範囲で作成していきます。
また、財産に関しては可能な範囲で資料の添付が必要になります。
預金あれば、通帳の写し、有価証券であれば証券の写しや、証券会社等から送られてくる案内書等、不動産であれば不動産の登記事項証明書等が必要になります。
財産を最も把握している親族の方や施設関係者等に確認して、可能な範囲でご本人のすべての財産を把握しなければならないため、財産の多寡によりますが、初めて申立を行う方にとっては大変な作業に感じる方が多いと思います。
しかし、ご本人の意思能力(記憶力)が衰えてしまっているため、後見申立人や後見人が見逃してしまうとご本人の財産が逸失してしまうことにもなりかねないため、しっかりと調査をする必要があります。
⑤相続財産目録及びその資料
こちらは、未分割の相続財産がある場合に記入が必要になる書類です。
例えば、ご本人(女性)の夫が既に3年前に亡くなっていて、ご本人の娘とご本人で預貯金や不動産を相続したが、遺産分割を行っていない場合等に必要になってきます。
遺産分割協議も、後見相当で判断能力が無くなっている場合には、そのままでは行うことができません。
そこで、後見人が就任した後に遺産分割協議を行うのですが、その協議の対象となるであろう財産も目録として作成し、資料と併せて裁判所に提出する必要があります。
これも上記④と記入の仕方に大きな違いはなく、調査が可能な範囲または入手が可能な範囲で、目録の作成・資料の収集が必要になります。
⑥本人の収支予定表及びその資料
こちらは、後見人が就任した後のご本人の収支がどのようになるのかをわかるようにする書類です。
収入がいくらの予定で、支出がいくらの予定か、ということを記入する書類になるのですが、ここでも詳細に記入する必要があります。
収入としては、厚生年金、国民年金、その他の年金、給与、賃料報酬等の項目別に、それぞれいくらもらえる予定なのかを詳細に記載していきます。
支出の記載はさらに細かくなります。例を挙げれば、
生活費(食費・日用品・電気ガス水道)、療養費(施設費・入院費・医療費)、住居費(家賃、借地の地代)、税金(固定資産税・所得税・住民税等)、保険料(国民健康保険料・介護保険料・生命保険損害保険料)、等々の要領で、何にいくら支出することが予定されているかを記載していきます。
また、収支に関しても可能な範囲で資料の添付が必要になります。
収入については、年金の額がわかる年金通知書のコピー、株式の配当金であれば配当金通知書のコピー等がこれにあたります。
支出については、施設費用のわかる領収書、住居費(例えば住宅ローンや家賃)の領収書や計算書、固定資産税の納税通知書等がこれにあたります。
これらの資料は申立の直近2ヶ月分のものが必要になりますので、申立人の手元に無い資料があれば、持っている親族や施設等の関係各所に話をし、資料をもらっていく必要も出てきます。
⑦後見人候補者事情説明書
この書面は、後見人の候補者を立てて申し立てを行う場合に提出が必要になる書面です。
例えば、母親が認知症を患い、娘が後見人候補者として申し立てを行う場合に必要になります。
仮に、親族が遠方に住んでいるために後見人として活動をすることが難しい場合や、そもそも親族が疎遠になっていて後見人になってもらいたいと頼むことが実質不可能等の理由で、後見人に就任する候補者が不在の場合には、この書面の提出自体不要になります。
後見人候補者事情説明書は、後見人の候補者に関して詳細に記載していきます。
後見人候補者の職業、年収、勤務先、職歴、家族構成、家族の年齢や職業、候補者となった経緯や事情等を記載していきます。
なぜこんなプライベートなことまで裁判所に報告しなければならないのかと思われる方も多いと思います。
しかし、これは裁判所がこの候補者を後見人に選任することで、被後見人の利益をしっかりと守ることができるかの適正をみているためです。
もちろんこの形式的な情報のみで判断できる部分は限られてくるとは思いますが、例えば、収入がある程度確保されているのであれば、被後見人の利益を侵害する可能性が比較的低いといえるでしょう。
また、家族がいたほうがサポートを受けながら後見業務を行っていける、といえるので問題が少ない等が考えられます。
被後見人本人の利益をしっかり保護するという成年後見制度の趣旨を実現するために、このような詳細な情報を提出する必要があるのです。
⑧親族の意見書(同意書)
後見申し立てを行う場合に、親族がどのような意向なのかを確認するための書面も併せて提出します。
「親族」は、基本的に被後見人が仮に将来死亡した場合に、相続権のある者が範囲として想定されています。
ただし、申立を行う者(申立人)は、賛成であるのが明らかなので、提出は不要です。
例えば申立を考えているXの両親A及びBが健在で、Xには弟Yがいるとし、Aの後見申立をXが行う場合、仮にAが死亡した場合の相続人はB、X、Yなので、裁判所に提出する意見書は、申立人Xを除くB及びYのものとなります。
また、例えば子のいないAには、既に亡くなっている姉Bがいて、Bには妻Cと子X、Y、Zがいたとします。
Aの後見申立Xが行う場合、仮にAが死亡した場合の相続人はX、Y、Zなので、裁判所に提出する意見書は、申立人Xを除くY及びZのものとなります。
意見書に記載する内容は、
①本人(被後見人)との続柄、本人について後見(保佐・補助)を申立ることについて賛成か反対か
②候補者を立てて申し立てを行う場合には、当該具体的候補者が選任されることについて賛成か反対か
の2点です。実際にはチェックボックスにチェックをしていきます。
これは、(将来的に)相続権のある親族間に争いがあると、例えば一部の(将来の)相続人のみで自己に有利な管理をする等により不公平感が増大してしまうことがありえるため、当該候補者を後見人とすることがかえって家族間の争いを助長させてしまう恐れがあるのかどうかをみていると考えられます。
本人(被後見人)のための制度であるのに、本人に後見人が就くことで親族間が揉めてしまうことはかえって本人を害する結果となってしまうため、裁判所としても避ける必要があります。
一部の親族の中に、候補者(ある相続人)が就任することに反対の場合には、家庭裁判所としては、弁護士や司法書士等の第三者(専門職)を就任させた方が良いと判断する可能性が高くなると考えられます。
⑨医師の診断書及び診断書付票(3か月以内のもの)
後見を申立するにあたり、そもそも被後見人となる方が、後見人を立てる要件に該当する状態なのかに関しては、医師等の専門家でないと判断ができません。
つまりご本人の状態が、法律上の文言でいう「精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある」か否かの判断は、申立を行う親族の意見のみでは不十分であり、医師による診断書をもって裁判所が判断していくことになります。
直近の状態のものでないと判断ができないということもあり、基本的には3か月以内作成のものが要求されます。
基本的にはかかりつけの医師が最もご本人の状態を把握できると考えられるため、かかりつけの医師にお願いするのが良いと思います。
ただし、全ての医師が精神状態に関しての専門ではないため、かかりつけの内科医等に診断書の作成を断られてしまうこともあるようです。
その場合には、「物忘れ外来」や「認知症鑑別診断」を行っている病院等に問い合わせしてみると、対応してもらえる病院がみつかると思います。
なお、本トピックスでは詳細は割愛致しますが、後見よりも弱い「保佐」、「補助」という類型もあり、医師の診断書に基づいてどの類型に該当するのかを判断していくことになります。
保佐は「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分である」者、また補助は「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である」者とされています。
それぞれ保佐人、補助人が家庭裁判所により選任され、後見よりも弱い措置が取られていくことになりますが、こちらは別のトピックスにてご紹介いたします。
この診断書につきましても、家庭裁判所のホームページにファイルが載っておりますので、印刷したうえで医師に記入をお願いするということになります。
外部サイト⇒家庭裁判所ホームページ「成年後見制度における鑑定書・診断書作成の手引」
内容は、診断名(病名)や、重症度、検査をした際の点数(例えば長谷川式の認知症テスト等)、脳の萎縮や損傷の有無、回復の可能性などを記入してもらいます。
また、診断書内に
①「契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができる。」
②「支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することが難しい場合がある。」
③「支援を受けなければ,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。」
④「支援を受けても,契約等の意味・内容を自ら理解し,判断することができない。」
という項目があり、どれに該当するかをチェックボックスにチェックするというものがあります。
基本的に④については後見相当、③については保佐相当、②については補助相当、①についてはどれも不要ということになり、とても重要な項目となります。
こちらのチェックにてすべてが判断されるわけではありませんが、それを覆すようなものが他の記載から読み取れない限り、上記のような判断を裁判所も踏襲することになるでしょう。
その他、
●他人との意思疎通の障害の有無
●理解力・判断力の障害の有無
●記憶力の障害の有無
についても、4段階でチェックするという項目もあります。
そもそも後見申立が必要な状態なのかを知りたいという場合には(診断書作成の費用を医師に支払う必要はでてきてしまいますが)この診断書の記入を医師にお願いし、上記項目等を参照して、申立を行う必要があるのかをご判断いただくという方法も良いでしょう。
また、診断書には「診断書付票」という書面も同時に医師に記入してもらいます。
後見申立が行われ、家庭裁判所が診断書等提出された書類をもっても「後見」「保佐」「補助」のどの類型を選択するべきかの判断がつかないこともあります。
そこで、そのような場合には、家庭裁判所の職権で、鑑定というものが行われます。
これは、家庭裁判所が選任した医師によって、より詳細に本人の状態を把握し、診断していくというものになります。
上記「診断書付票」には、仮に鑑定を行うことになった場合に、引き受けてもらえるか否か、またその場合にかかる期間や報酬額を記載してもらうものになります。
家庭裁判所はこちらの記載も参考にしたうえで、鑑定を行う場合にはこの診断書を記載してもらった医師に依頼するか、別の医師に依頼するのかを決めていきます。
⑩本人確認情報シート
後見申立を行う際には、医師による診断書を提出することで、ご本人の状態を家庭裁判所が判断しますが、この医師の診断書の補足資料として、「本人情報シート」を提出していきます。
基本的にご本人の普段の様子等を記入していく書類になります。
まずは形式的な部分で、現在どちらにいるのか(ご自宅なのか施設なのか病院なのか)、施設や病院でしたらその名称や所在、介護認定や障害者認定等の該当区分、認定日等を記載していきます。
次に、実質的な部分で、普段の生活の中で身体的な支援が必要か、またどの程度の支援が必要か、それに伴って今後の支援体制としてどのようなことが必要になってくるのかを記入していきます。
また、認知機能の程度として、日常的な意思伝達能力の程度、日常生活の短期的記憶能力の程度、家族を認識できるか等を記入していきます。
その他、下記のような内容を記入していきます。
●日常生活上支援が必要な行為
●地域社会との交流の頻度
●金銭の管理を現在どのように行っているのか
●今後生じうる課題
●ご本人に裁判所の手続きをすることについて説明しているのか
(又は認知症の程度が重度で、説明しても理解できないので説明していないのか)
●本人にとって望ましい日常生活及びそれに関する課題と解決策等
内容としては記入が簡単ではないうえ、日常的にご本人にある程度関わっていないと記入できないものと言えます。
そこでこちらの書類については、基本的には福祉関係者に作成してもらうことになります。
明確に決まりがあるわけではありませんが、例えば自宅にて訪問介護をうけている方であればケアマネージャーの方、病院に長期に入院中の方でしたら、病院にいる相談員(ケースワーカーやソーシャルワーカー)等に記入してもらうことになります。
なお、こちらの書類は提出が義務ではなく、可能な限り提出が求められている書類になります。
これは、例えばご本人の配偶者の方がご自宅で介護をされていて、ヘルパーさんも頼まれていらっしゃらず、入院もしていなくて、書いてもらえる方がいない場合も想定されるからです。
この場合には、提出が義務になっている②申立事情説明書において、ほとんど同じような項目があります。
そして、本人情報シートを提出すれば、申立事情説明書のこの項目についての記載は省略できる、との構成になっています。
逆に言えば、本人情報シートの記入を福祉関係者に依頼できない場合には、申立を行う方(例えば本人の配偶者や子等)が申立事情説明書に当該項目を詳細に記入する事で、本人情報シートの提出は不要になります。
本人情報シートの記入を福祉関係者に依頼できる場合には、本人情報シートを福祉関係者に記入して頂き提出する代わりに、申立を行う方(例えば本人の配偶者や子等)の申立事情説明書の当該項目の詳細な記載は免除されるということになります。
裁判所からすれば、医師の診断書ももちろん重要ですが、ご本人の近くにいて、日常生活を実際に見ている方に様子を聞くことで判断材料にしていく、という点を考慮すると重要な書類であるといえます。
余談となりますが、この書類作成を通して、日常生活がどの程度可能で、どのような支援が必要なのか等、改めてよく考えてみていただき、ご本人にとって何が最良な環境なのか(在宅介護なのか施設入所なのか、どの程度支援が必要な施設を選択するか等々)を改めて考えていく良い機会ともなるでしょう。
⑪本人の戸籍謄本
⑫本人の住民票(又は戸籍の附票)
⑬後見人候補者の戸籍謄本
⑭後見人候補者の住民票(又は戸籍の附票)
※すべて3ヶ月以内のもの
成年後見を申し立てる際に、被後見人予定者や後見人候補者に関して、何通か提出しなければならない証明書があります。
申立書類を受領した裁判所としては、被後見人予定者や後見人となる候補者の方が、実在する人物なのか、またどこに居住しているのかを確認するため、公的な証明書類が要求されます。
まず、被後見人予定者本人の戸籍、住民票(または戸籍の附票)です。
直近のものの証明書が要求されますので、どちらも発行後3か月以内のものを提出する必要があります。
また、住民票に関しては戸籍の附票にて代用が可能ですが、戸籍の附票という書類はあまりなじみのある書類ではないかと思います。
簡単にご説明すると、今現在の本籍にいる期間について、その期間内に住所を移転した遍歴を、全て記載した書類になります。
余談ですが、本籍は結婚や養子になる等以外で変更しない方が多いため、頻繁にお引越しされている方が住所遍歴を証明するためには非常に便利な証明書かと思います。
こちらも住民票と同じく、住所を証明する書類ですので、住民票の代わりになるということです。
住民票に関しては、マイナンバー(個人番号)を載せることができるようになっておりますが、裁判所はマイナンバーを記載した書類の受領ができないため、マイナンバーは省略したものを取得する必要がありますので注意が必要です。
また、後見人候補者をあらかじめ指名して申し立てを行う場合、当該後見人候補者の戸籍謄本と、住民票(または戸籍の附票)も提出する必要があります。
こちらに関しても、期限の3か月、マイナンバーを載せたものは使用できない点は、被後見人本人の戸籍、住民票と同じですので、注意が必要です。
また、住民票はやはり戸籍の附票にて代用可能です。
(3か月以内のもの)
この書類は、既に後見制度を利用していて、後見人等が就任している方に対し、二重で選任されることのないように、提出が求められています。
従いまして、「被後見人予定者の方」に関して、後見/保佐/補助/任意後見について既に「登記されていないことの証明書」を提出することになります。
こちらの書類は、(東京23区の場合)東京法務局の後見登録課に対して発行を依頼するものになります。
「登記されていないことの証明書」の請求をする際に、「どの登記」がされていないことを証明する必要があるか、を発行請求書に記載することになるのですが、先述のとおり、「後見/保佐/補助/任意後見について」が求められていますので、一部でも欠けていると証明書を取得し直しとなってしまいます。
そのため、取得請求書を記載する際は必ず「後見/保佐/補助/任意後見」の全てと記載(またはチェックボックスにチェック)してください。
こちらは知的障害のある方が被後見人予定者となる場合、お持ちでしたらこちらのコピーも提出書類となっておりますので、併せて提出する必要がございます。
後見申立を行う際に家庭裁判所に提出する書類のご説明は以上となります。
成年後見の申し立ては、収集する書類が多く、一般的になじみの薄い手続きですので、ご自身で行うのは時間と労力がかなりかかってくると思います。
司法書士法人鴨宮パートナーズでは、制度について何もご存知なくても、一から丁寧にご説明させて頂きまして、書類の収集代理・提出書類の記入代理、さらに家庭裁判所との連絡も当法人にて致します。
成年後見の申し立て手続きをお考えの方は、目黒区学芸大学駅の司法書士法人鴨宮パートナーズにお気軽にご相談下さい。
遺言書の検認 (2020.07.22)
以前のトピックスで、公正証書遺言と自筆証書遺言について取り上げました。
⇒【遺言の種類と書き方~公正証書編~】
⇒【遺言の種類と書き方~自筆証書編~】
⇒【遺言が無効となったケース~公正証書遺言編~】
⇒【遺言が無効となったケース~自筆証書遺言編~】
⇒【自筆証書遺言書保管制度について】
公正証書遺言と法務局で保管された自筆証書遺言(令和2年7月10日より法務局での保管制度開始)以外の遺言書は、家庭裁判所の検認を受けなければなりません。
遺言書の検認を受けていなければ、不動産の名義変更登記の申請、預貯金解約等の相続手続きをすることができないのが通常です。
今回のトピックスで改めてこの『検認』について触れていきましょう。
自筆証書遺言や秘密証書遺言を発見した人が、自分の都合のいいように遺言書の内容を変更したり、遺言書を破棄したりすることを防止するために遺言書の検認が行われます。
検認手続きでは、相続人が集まって遺言に書かれている内容を確認し、遺言書をその時の状態で保存します。
検認手続きを終えると、検認済証明書を発行してもらえるので、裁判所で検認を受けた遺言であることを証明できます。
・遺言書を発見した相続人
相続開始を知った後、遅滞なく、遺言書を家庭裁判所に提出して検認を請求なければなりません。
遺言者の最後の住所地の家庭裁判所に申立てを行います。
・遺言書1通につき、収入印紙800円
・連絡用の郵便切手(各家庭裁判所によって異なります)
・遺言者の出生から死亡までの戸籍謄本
・相続人全員の(現在)戸籍謄本
・相続関係が確認できる戸籍謄本
・受遺者がいる場合には受遺者の戸籍謄本
戸籍謄本は、法定相続情報一覧図の写しを提出すれば、基本的には提出する必要はありません。
但し、ケースによっては一部の戸籍謄本等の提出を求められることがあります。詳細は管轄の裁判所の指示に従ってください。
検認手続きをしていなかった場合、最終的に名義変更等の遺言執行をすることが出来ません。
なぜなら、自筆証書遺言はそのままでは被相続人本人の自署による遺言書かどうかの判断出来ない為、登記や預貯金解約等のほとんどの名義変更手続きにおいて、遺言書の検認後に裁判所から発行される遺言書検認済証明書や遺言書検認調書謄本の提出を求められるからです。
検認をせずに遺言執行手続を行った場合、5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性があります。
また、封印のある遺言書は、検認時に家庭裁判所で相続人の立会いの上で開封する必要があり、こちらも勝手に開封してしまった場合、5万円以下の過料が課される可能性があります。
↓
②相続人・受遺者への検認期日通知
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③遺言書の検認
↓
④検認調書作成
↓
⑤検認済証明書の交付請求
自筆証書遺言を発見したら、まずは相続人や受遺者から家庭裁判所に検認申立てをする必要があります。
申立てから検認期日(検認を行う日)が開かれるまでに約1ヶ月程度かかります。
相続人・受遺者には、申立後に裁判所から検認期日が通知されます。
申立人以外の相続人が検認期日に欠席した場合にも、検認手続きは行われます。
期日では申立人から遺言書が提出され、出席した相続人の立会いのもと封筒を開封し、遺言書の形状、加除訂正の状態、日付、署名などの検認期日現在における遺言書の内容を確認します。
このとき相続人に対し、遺言が自筆であるか、押印が遺言者のものであるかどうかを確認されます。
検認手続き後、検認年月日・立会人の氏名・住所・立会人の陳述の要旨等が記載された検認調書が作成されます。
遺言執行後に登記や預貯金解約等の名義変更をする上で、遺言書に検認済証明書がついていることが必要となるケースが大半ですので、検認済証明書の交付を請求します。
検認済証明書の交付は、検認期日が行われた日のうちに請求することができます。
家裁での遺言検認手続きが無事終わり、ようやく様々な手続きを進めていこうとした時、大きな落し穴が潜んでいる点に注意する必要があります。
遺言書の検認申立をするには戸籍謄本等の必要書類を収集しなければなりません。
相続人が多数いたり、被相続人が何度も転籍していたりすると、戸籍の収集だけでも1ヶ月以上かかることもあります。
ようやく必要書類がすべて集まり、いざ検認申立てをしても、検認期日を迎えるまでに約1ヶ月の期間がかかります。
その間、相続に関する手続きが止まってしまいます。
ここで注意しなければいけないのが、検認に時間がかかってしまったからといって、相続放棄の申述期限(相続発生後3ヶ月)や相続税の申告期限(相続発生後10ヶ月)などは延長されない、という点です。
その後の相続手続きの中で思わぬ債務が発覚したが相続放棄の申述期限を過ぎてしまった、などといった事態に陥っては洒落になりません。
また、預貯金などの口座は被相続人の死亡が判明すると凍結されます。
被相続人の口座が凍結されてしまうと、当然その口座での引き落としや引き出しは一切できなくなります。
検認手続きが終わるまで相続手続きが滞ってしまうと、残された相続人の生活に支障が出てしまう可能性もあります。
※民法改正により、法定相続人であれば一定の要件を満たせば「預貯金の仮払い請求」が可能になりました。(令和元年7月1日施行)
多くの人が考え違いをしてしまうのですが、検認を受けたからと言って、その自筆証書遺言が有効であると確定するわけではありません。
検認の目的はあくまで証拠保全です。
要するに、「この遺言書は、裁判所でこの期日に検認しましたよ。」という事実を証明できるだけであり、その後の相続手続きでその遺言書の内容通りに手続きを進める事を保証しているわけではないのです。
せっかく時間をかけて検認申立を終えても、遺言書としての効力が無ければ元も子もありません。
遺言書の検認申立てをする際、多くの必要書類の収集や申立手続の書面を用意する必要があります。
申立人の事情により本人が手続きを進められない場合、司法書士等の代理人に依頼する必要があれば、その依頼費用がかかってきます。
いかがでしたでしょうか。
自筆証書遺言は公正証書遺言と比較して気軽に書けるメリットがある反面、その後の相続人や受遺者の手続が煩雑になる事や、何よりご自身の想いを望んだ形で遺せないという大きなリスクがあります。
当法人では、遺言を検討されている方にはやはり、公正証書遺言をお勧めしています。
多少のお費用はかかってしまいますが、相続に関して豊富な知識を持つ専門チームが、ご依頼者様の意思を的確に反映し、煩雑なお手続きをしっかりとサポートさせて頂きます。
また、どうしても自筆証書遺言を遺したいという場合でも、遺言内容へのコンサルタントという形でサポートさせて頂きます。
遺言をお考えの方は是非一度、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談ください。
数次相続と法定相続分の行方 (2020.06.30)
以前のトピックスで、法定相続人・法定相続分・相続放棄のご説明をさせて頂きました。
今回は、実務で年間数件お目にかかるか否かの特殊な事例を掲げ、ご説明していきたいと思います。
当法人にご相談にいらした方で、話を聞くところ下記のような相続関係でした。
実はこちらのご相談、既に手の打ちようがなく最終的にお受けすることは出来なかった案件です。
いったい、何がどのように困った状況だったのか、順を追ってご説明いたします。
先程の事例ですが、最終的な法定相続人は、B・C・E・Fになります。
まず、Aの死亡時の法定相続人はB・C・Dに確定します。
ところが、上記の事例ではAの遺産分割未了の内に二男Dが亡くなっています。
このように、相続が立て続けに発生することを数次相続と言い、被相続人Aの遺産分割をする際、二男Dが被相続人Aから承継した4分の1の法定相続分はそのままDの法定相続人に承継されます。
ですので、Dの代わりにDの第一順位の法定相続人であるE・FがAの法定相続人として登場することとなるのです。
ここからかなり複雑な話になりますが、二男Dには借金があり、目ぼしい財産はAの法定相続分4分の1しかないことから、Dの配偶者Eと子Fは相続放棄の申述を家庭裁判所に提出していきました。
すると、二男Dの借金とAから承継した法定相続分4分の1は、第二順位の父Bに承継されます。
父Bが相続放棄を選択した場合、最終的に第三順位の兄弟Cに借金とAから承継した法定相続分4分の1が承継されます。
実務上、借金がある場合、第一順位の相続人が相続放棄を選択すると、第二順位・第三順位の相続人に順次借金返済の義務を生じさせてしまうことから、第三順位の兄弟まで相続放棄の申述を提案していくパターンが多いと言えます。
第一順位~第三順位の法定相続人全員が相続放棄をすると、相続人不存在となり、借金はもとより、Dに帰属していたAの法定相続分4分の1は宙に浮いた状態となります。
Dの相続関係について、Dの法定相続人が全員相続放棄をしたから、Aの遺産分割協議はB・Cのみで行えるということではないのです。
この事例においてAの遺産分割協議をする場合は、Dの相続財産管理人(通常弁護士か司法書士が選任されます)の選任の申立てを家庭裁判所に申立て、選任された相続財産管理人とB・Cとで遺産分割協議をすることとなります。
相続財産管理人の選任申立てには、家庭裁判所に予納金として通常30万円~100万円ほど予納しなければならない他、Dの相続財産管理人とB・CがAの遺産分割協議をする際、Dに帰属した法定相続分4分の1相当を代償金で支払う、等の策をとらなければ、遺産分割協議は成立しません。
相続財産管理人は、相続人不存在となった場合に登場し、被相続人(ここではDのこと)に帰属した債権債務を早期に取り立て・弁済する義務を負っています。
よって、4分の1相当の代償金が支払えない場合は、相続財産管理人から遺産分割調停・審判を申立てられ、Aの遺産である自宅等を売却する手続きを取られてしまう可能性があります。(換価分割)
上記の事例は、他事務所の司法書士が既にDの法定相続人全員の相続放棄を完結させた上で、後日Cから当法人に相談を頂いた事例でした。
相続放棄を担当した司法書士は、相続放棄後の始末をすることが出来ずお手上げ状態だったとのことで、当法人に相談が来た次第です。
本来であれば、事前に全ての流れを聴取した上で、例えばDの財産については限定承認をするなどのご提案が可能です。
相続に精通している専門家でないと、このように複雑な事情が絡んだご相談を解決に導くのは困難と言えるでしょう。
相続手続、相続放棄は安易に考えずに、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、是非一度ご相談にいらしてください。
借金等がある場合の相続手続き (2020.04.22)
2.相続放棄の概要
3.相続の種類とは
3-1.限定承認について
3-2.相続財産に不動産が含まれる場合
3-3.キャピタルゲイン(増加益)への課税
4.専門家に依頼する場合
一口に相続手続きと言っても、故人の資産状況等、各ご家庭の事情によりその手続き方針は千差万別です。
今回は、故人の財産が借金等しかない場合の相続手続きをご紹介致します。
故人にプラスの資産がなく、借金しかない場合、何も手続きをせず放置をしていると、日本の法律では、その借金は相続人に自動的に承継される決まりとなっています。
(銀行ローン、消費者金融からの借り入れ、故人の友人からの借金等など。)
上記の借金諸々を、何も手続きをしない限り、相続人が法定相続分に従って、借入先にお支払いしていく義務が出てくるのです。
このような、借金関係を一切承継したくないという相続人は、故人が亡くなったことを知ってから3か月以内に、所轄の家庭裁判所に『相続放棄』という手続きをとることにより、借金の承継を免れることができます。
相続放棄の手続きは、必要書類を添付して所轄の家庭裁判所に申述しなければならないばかりか、3か月以内という期間制限があることから、手続きの流れを熟知していないと、所轄の家庭裁判所に『期限切れで却下』という扱いを受ける危険性があります。
また、家庭裁判所に相続放棄の申述をしてもすぐに手続きが終わるのでは無く、後日届く家庭裁判所からの照会書に回答をして、家庭裁判所に相続放棄を認めて貰えなければ相続放棄の手続きは完了しません。
さらに実務上、債権者に対しては、相続放棄申述受理証明書を提出しなければ、相続放棄の効果を認めて貰うことが出来ません。
この、相続放棄申述受理証明書、家庭裁判所が自動的に発行してくれるのでは無く、別途、『相続放棄申述受理証明書の交付申請』という手続きをしなければ手に入らない代物なのです。
前述した、手続きに必要な必要書類は、故人と相続人がどのような関係であったのかにより、大きく異なってきます。
また、借金等のマイナスの遺産が無いと思っていたら、ある日突然債権者からの通知が届くケースも多々あります。
相続が発生すると、相続人は法律上、下記の3つの選択肢の中から手続きを選択することとなります。
①単純承認:プラスの財産もマイナスの財産も一切合切相続するということ
②相続放棄:プラスの財産もマイナスの財産も一切合切相続しないということ
③限定承認:マイナスの財産も相続するが、そのマイナスの財産(借金)の弁済は、相続財産の中から弁済し、相続財産の中から弁済しきれないものについては責任を負わないという選択
実務上、圧倒的に多いのが①のケースです。
続いて、多いのが②のケース。このケースは、「もはや遺産が借金しかない場合や、遺産に借金はなく不動産があるけれど固定資産税を払いたくない、そして売却しようにも買い手がつきにくい場合」等が挙げられます。
ここで、実務でほとんど選択されない③のケースをご紹介致します。
この限定承認という手続き、必要書類も手続きの流れも、前述した相続放棄の手続きよりも格段に難易度があがります。
限定承認は、適正な手続きを取って各債権者に弁済をし、余剰財産があれば相続人が取得することが出来るという制度です。
一見すると聞こえはいいのですが、手続きが非常に煩雑なのです。
一般的には、遺産を把握しきれず債務超過となっているか明らかでないため、相続放棄をした方がいいかどうか判断できない場合や、債務超過だが家業の承継のため相続財産の一部だけは確実に取得したい場合等に有効な制度といえます。
限定承認は、相続人全員で同時に申立をしていく必要があります。
この申立の際に、借金等のマイナス財産も含めた相続財産の目録も添付していかなければならない為、事前の財産調査が必須となります。
また、限定承認申立後、家庭裁判所は相続人の中から相続財産管理人を選任し、選任された相続財産管理人は、相続財産の管理及び清算手続きを行っていくこととなります。
この相続財産管理人に選任された相続人は、故人の債権者の方々に対し、官報(国の機関紙)公告をしたうえ、知れたる債権者(取引銀行等)には各別の催告(通知と同義にとらえて頂いて結構です。)をしなければなりません。
限定承認の手続きでは、相続財産に不動産等が含まれる場合、この不動産を換価(売却してお金に換えること)していく必要があります。
この換価手続きは原則、民事執行法に規定する競売の方法により行われますが、限定承認者が買受けを希望する場合には、家庭裁判所が選任した鑑定人が評価した相続財産の価額を支払うことによって、競売せずに買受けることが出来ます。
これを先買権の行使といいますが、この先買権の行使をすることによって、例えば、家業を承継する為に故人の不動産をどうしても取得して、その他の債務・借金は相続財産の中から支弁したいという方にとっては有用な手続きと言えるでしょう。
上記手続きを終えると、相続財産管理人は、申し出のあった相続債権者に対し、相続財産をもって弁済をしていくこととなります。
弁済が終了してもなお残余の相続財産がある場合、相続人間で遺産分割して当該財産を取得していきます。
限定承認をすると、相続税とは別個に、みなし資産譲渡所得税という譲渡所得税が発生します。
相続は、故人から相続人への承継という概念がありますが、限定承認をすると、相続が開始した時の時価で資産が譲渡されたものとみなされ、譲渡所得税が課税されることとなるのです。
このみなし譲渡所得税課税にも注意しながら手続きを進める必要がありますが、この課税リスクの考え方は税理士でも頭を抱えるほど難しく、容易に判断ができるものではないのが実情です。
みなし譲渡所得税は、相続財産から支払うこととなり、万が一相続財産から支払えない場合でも、相続人固有の財産から支払う義務は一切ありませんが、事前に税理士への相談はしておいた方がよろしいかと思います。
このように手続きを紐解いて行くと、司法書士・税理士等が連携を図りながら進めていく必要があり、また、相続人にも相続財産に対する管理責任や競売手続き、相続財産の鑑定人選任申立手続きを伴うことから多大な負担となり、家業を承継して相続財産の中から特定の財産のみを買い取りたいといったような特別の事情がない限り、あまり選択されない手続きと言えます。
相続放棄を検討する上で、前述したような期限、手続き内容の複雑さを鑑みると、士業専門家に依頼するのが良策と言えるでしょう。
ただしどの専門家でも良いというわけではありません。
相続放棄の申立ては家庭裁判所へ行う為、お手続きをお手伝い出来るのは、司法書士か弁護士に限られており、税理士・行政書士等の他士業は関与することが出来ません。
また、司法書士・弁護士と言っても専門分野が多岐に分かれており、手続きの進め方・考え方等は相続に専門特化していなければ、ご提供が出来ません。
例えば、故人に借金等があったのかすら把握されていない相続人からのご依頼の場合、各種機関に信用情報調査を依頼するところから始まります。
当法人では、故人に借金があったことをたった今知ったけど、相続放棄の期限まで『あと3日』等という事案を解決したケースも過去にございました。
各ご家庭の事情にもよりますが、上記の様なケースでも、相続放棄の手続きを多く取り扱って来た当法人のノウハウを活かせば、最適な方法をご提案することができます。
限られた期間内に相続放棄の手続きを完了させるのは、至難の業です。
もしも、特別な事情等がある場合、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、まずは一度、お早目のご相談をお薦め致します。